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金薬局の娘たち

慶尚南道トンヨン(統営)を舞台に,解放前の19世紀後半から1930年代に至る歴史の激動期に翻弄されたキム一家の女性たちを描いた年代記ともいえる女性作家パク・キョンニ(朴景利)の同名の小説の映画化

トンヨン(統営)の有力者キム・ソンス家は,日帝強制占領期間にさしかかり,新薬が普及すると薬局をたたんで、漁場の重要な部分まで日本人に奪われ,家勢が衰えている。また,4人の娘たちも,弱り目にたたり目で,順調でない人生を送っている。

三女ヨンナンは,愛欲にあふれる本能的な女性で,キム・ソンスは,漁業をするキドゥに嫁がせるつもりでいるが,すでに作男のハンドルと情を通じていることが発覚する。

ハンドルは,追い出され,ヨンナンは,アヘン屋であるヨナクに嫁入りするが,ヨナクは性障害者で,その暴力と虐待のために,ヨンナンは,妻の実家へ逃げ帰るのが常だ。

若くして未亡人になった長女ヨンスクは,息子の面倒を見た医師と情を通じ,産んだ赤ん坊を殺害し,家からほとんど見捨てられ,お金だけをあくせく集めて暮らしている。

キム・ソンスは,難しい事情を打開するため,多額の金を借りて機関船を買うが,事故が起こって船員が死に,その補償金で財産を使い果たす。

キム・ソンスは,漁場を管理してきたキドゥと四女ヨンオクを結婚させるが,漁場はずっと困難で,キドゥは,酒に溺れて暮らしている。

そんなある日,ハンドルが帰ってくる。ヨンナンは,ハンドルとある部屋で密会しているところをヨナクに見つけられる。

かんかんに怒ったヨナクは,ハンドルとヨナクを殺そうとしたが,これを止めに入った母ハンシル宅は,ヨナクの斧に殴られ死に,ヨンナンは狂ってしまう。

次女ヨンビンは,大学教育を受けて教師となり,キリスト教に帰依した新女性であるが,このような悲劇を見て,トンヨン(統営)から永遠に離れようと思うが,彼女を慕う独立活動家カングクの説得で一緒に故郷に残ることにする。

[制 作 年] 1963年 [韓国封切] 1963年 [観覧人員]  [原 題] 金薬局の娘たち 김약국의 딸들 [英 語 題] The Daughters of the Pharmacist Kim       Kim's Daughters [ジャンル] メロドラマ,家族 [原 作] パク・キョンニ(朴景利) [脚 本] ユ・ハンチョル(劉漢徹) [監 督] ユ・ヒョンモク [助 監 督] イ・ジェホン(李載憲) [撮  影] ピョン・インジプ(邊仁楫) [照  明] パク・チンス(朴振洙) [編  集]  [音 楽] キム・ソンテ(金聖泰) [美 術] イ・ボンソン(李奉先) [出 演] チェ・ジヒ     → ヨンナン キム・ソンスの三女       オム・エンナン   → ヨンビン キム・ソンスの次女       ファン・ジョンスン → ハンシル宅 キム・ソンスの妻       キム・ドンウォン  → キム・ソンス キム薬局       カン・ミエ     → ヨンオク キム・ソンスの四女       ファン・ヘ     → ハンドル 作男       パク・ノシク    → ソ・ギドゥ 漁師       ホ・ジャンガン   → チェ・ヨナク アヘン中毒       イ・ミンジャ    → ヨンスク キム・ソンスの長女       シン・ソンイル   → イ・テユン 日本に留学       チェ・ソンジン   →           チェ・ソンホ    → ホンソプ 大学生        ナム・チュニョク  →        チュ・ソンテ    → チョン・グクチュ ホンソプの父       チェ・スンイ    → キム(金)薬局家の姉 テユンの母       ペク・ソン     →        キム・ソッカン   →           ソク・クムソン   → ムーダン(巫堂)       ポク・ヘスク    → コン老婆       パク・ウネ     →           ユ・ミン      →           シム・サンウ    →           チェ・ジャンホ   →           イム・ヘリム    →           イ・ギョンヒ    →           クォン・オクナム  →           キム・ヘギョン   →           カン・ソクチェ   →           Mrs.ROBINSON    → 教会 牧師 [受 賞] 第11回 アジア映画祭 悲劇賞    1964 第3回 大鐘賞映画祭/女優助演賞(チェ・ジヒ)                    撮影賞(ピョン・インジプ)                    音楽賞(キム・ソンテ)                    美術賞(イ・ボンソ)       1963 第1回 青龍映画賞/女優助演賞(チェ・ジヒ)                   美術賞(イ・ボンソン)       1964 第7回 釜日映画賞/女優助演賞(チェ・ジヒ) [時 間] 108分 白黒 [観覧基準]   [制 作 者] チャ・テジン(車泰辰) [制作会社] ククトン(極東)興業株式会社 [ビ デ オ] 日本発売なし [レンタル] なし [H P]  [撮影場所] 慶尚南道 チュンム(忠武)市 [You Tube] https://www.youtube.com/watch?v=FLh9Lb3G8JU [Private ] K-DVD 【75】(5,600-2023/01/15)        韓国映像資料院 ユ・ヒョンモク コレクション(日本語字幕あり)         あなたと永遠に(1958)         金薬局の娘たち(1963年)         終列車で来たお客さん(1967年)         長雨(1979年) [お ま け] ・福岡市総合図書館 所蔵作品       ・韓国映画の巨匠        兪賢穆(ユ・ヒョンモク)監督特集 上演作品        (福岡市綜合図書館 映像ホール シネラ 1999年2月)      ○韓国映像資料院 ユ・ヒョンモク コレクション より       ユ・ヒョンモク映画の形式主義的スタイル         アン・ジェソク 韓国映像資料院客員研究員       <金薬局の娘たち>         パク・キョンニの同名小説を映画化した<金薬局の娘たち>(1963)は,原        作の膨大なストーリー時間を100分余りの上映時間内に無理に縮約したために        ナレーティブ上の弱点が見えるが,映画全般に垂らした悲劇的な情緒を精巧な        画片化(framing)を通じて形象化するなど,ユ・ヒョンモクの一階一歩進んだ        演出スタイルをのぞくことができる作品だ。         この映画でシネマスコープの広い画面は抑えられ,閉じ込められたキム薬局        一家の運命を表現する機際として活用される。         さらに,フレーム左右の側面を木などの被写体で満たすことによって,彼ら        をより一層固く締めつけると見えるようにする。         例えば,映画の導入シークエンスで,ソンウク(金薬局の母の初恋相手)は,        巨大な木が1/3程度遮られたフレームの左に登場する。         続くショットもフレームの左側に木が位置していて,これによってソンウク        の姿は萎縮するように見える。         ソウルへ留学に行って帰ってきたヨンビン(オム・エンナン)が家の中に初        めて入る場面でも,フレーム右側の前景は,木で遮られていて,人物は,フレ        ームの左側に閉じ込められている構図を取る。         これは,劇序盤から金薬局一家の不幸を予告していることであり,この映画        の観察者であるヨンビンが,その悲劇のディージェシス(diegesis)中に進入        したことを見せてくれる。         それだけでなく,ハンシル宅(ファン・ジョンスン)が,ヨンスク(イ・ミ        ンジャ)に金を借りに行って,彼女の冷たさに出て行く場面と一緒に登場人物        を'フレームの中のフレーム’を通し見せてくれたり,逃げたソンウクを探すこ        とができなかった召使いをキム・ポンニョン(キム薬局の父)が殴り倒す場面        と,ハンドル(ファン・ヘ)に会いにこっそりと出て行ったヨンナン(チェ・        ジヒ)が,ヨンビンに見つけられて,からだを避ける場面などのように,板の        間の下の方で捉えたアングルがしばしば見えるが,これも,今後彼らに近づく        悲劇的な運命を暗示する。          この映画も,<あなたと永遠に>と同じように,絶えずカメラが動くのが特        徴だ。         いつのまにか,ユ・ヒョンモクの作家的捺印のようになってしまったこの流        麗なカメラの動きは,度重なった再画片化(re-framing)過程を伴って固定画        面の単調さを相殺させて,観客を映画の中の話に能動的に参加させる機能を果        たす。         サウンドの使用も注目するに値する。         きぬたを打つ音,教会鐘の音,カラスの鳴き声などは,単純に内在的サウン        ドとしてだけ機能するのではなく,不幸の前兆,西欧文化,シャーマニズム        (shamanism)などを象徴する衆意的な意味で使われる。         特に,カラスの鳴き声は,劇の初中盤には,金薬局一家の悲劇的な運命を暗        示するが,後半には,"カラスよ,カラスよ,我が家にお金をちょっと持って        きて”という幼い少年の歌声とともに,悲劇の克服を象徴する意味に変わる。


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