企画モノたちの夢の跡

そんな時代もあったねと

どんな分野であれ,コレクションというものに対する情熱には波がある。憑かれたように資財を注ぎ込む時期もあれば,比較的冷静に取捨選択ができる時期もある。その兼ね合いがコレクター人生の泥沼度を左右するわけだが,幸い,僕はまだ奈落の底までは行っていない。幸か不幸か,途中でメディアがLDからDVDに変わったため,暴走に歯止めがかかったのかもしれない。

さすがに手持ちのLD全部をDVDで買い直すほどの経済力とは無縁だからだ。ではお金持ちだったらそうしたのかと問われれば……そうしたかもしれんなあ,とちょっとコワイ気持ちになる。病?が癒えたわけではないということか。

それはともかく,LD時代には僕もかなり無茶な買い物をしていた時期がある。こんなもの買い込んでどーするよ,と今なら自分でストップがかかりそうなタイトルもいくつか買った。珍品も喜んで手にした。名場面や珍しい映像,テレビしか持たない普通の人には無縁の貴重なデータ,それらを次々と我が手に押さえ込むことがうれしかった……今思えばそんな気分だったかもしれない。

特にノンフィクションやドキュメンタリーの分野には映像コレクターの血を刺激する企画モノがいくつもあって,LDが衰退期に入った後でも中古セールなどでめぼしいものを捜索していたことがある。

DVDでもそうしたタイトルはいくつかあるはずだが,大多数のユーザーは映画と音楽しか買わない。店頭でも日陰者の扱いだが,LD時代にはけっこう「でん」と存在感を示していたこともあるのだ。そして中身も十分に面白かった。

そこに未来があると信じてた

かつてLDはパイオニア社が盟主の名にかけてタイトル充実を図っていたので,売れ線以外にもいろいろ面白いものが出ていた。絵の出るレコード,最新の情報メディアとして期待をかけていたわけだ。なるほどーとそんな気分を最初に感じたのが「スペースディスク」のシリーズである。

これはNASAの膨大な映像データの中からテーマごとにたくさんの写真やムービー,インターネット普及以前にはまず見る機会のなかった珍しい実験映像などをしこたま詰め込んだもので,今風に言えばマルチメディア図鑑というところか。

とにかく新鮮だったのは数千枚単位で収録された静止画のライブラリーだ。新聞や雑誌などでは数枚単位でしか目にすることができなかったものが何千枚も一挙に手に入ったのだ。子どものころからの天文ファンの一人としては恍惚として眺めたものである。このありがたさは今でも変わらない。

それにLDはあのサイズだからジャケットもまた重要な媒体として使われていた。詳しいインデックスとして目いっぱい細々と印刷された解説書や資料集がまたうれしかった。NASAの資料番号一覧まで記されていたので,お気に入りの写真はよほどネガを注文しようかと思ったくらいである。

こりゃ確かにビデオとはまるで違う新しさだ,と当時の僕は実に新鮮な思いで感動していた。

映像文化の香りも高く

このLDを使った図鑑的企画モノはいたく僕のコレクション欲にマッチしたらしく,その後も新しいシリーズをけっこう楽しみにしていた。今思い出したけど,「動物映像大百科」なんてものまで棚にあるところをみるとよほど気に入ってたらしい。

中身はテレビの「野性の王国」とたいして変わらないんだけど,まあインデックス付きの動画集といったところ。購入特典としてハードカバーの実に立派な索引兼資料集がもらえた。大判フルカラーでたぶん実売価格なら数千円はする代物だ。昔はサプルメントも豪華だったのである。僕には重たい本が好きという奇病があるので密かにうれしかったな。

もうひとつ,大好きな企画に「映像の先駆者」シリーズがある。これは映像文化のパイオニアたちの作品集兼ドキュメンタリーのようなものだが,まさに映像関連の超重要タイトルの宝庫で,数ある企画モノの中では今でも最高のものだと思っている。

噂にのみ聞く伝説的な作品のいくつかを僕はこれで初めて目にすることになった。その喜びと優越感といったらなかったな。ロバート・エイブルの作品集なんて映像コレクターを目指す人間には宝の山だったし,イームズ夫妻の「パワーズ・オブ・テン」なんてのは,そういうフィルムがあるということだけはいろんな記事で読んでいたけど実物を目にする機会なんて金輪際ないと思っていた作品だ。

全シリーズを収めたボックスが出た時は,単品で持っていたにもかかわらず買ってしまったくらい僕のお気に入りである。LDの偉大な遺産のひとつであることは間違いない。

私は神さまになりたい

こういった企画モノは好きな人だけが買うので,買ったらなかなか手放さない。中古セールでもお目にかかる機会が少ないのだが,ある日「昭和史」全巻セットのボックスを超格安で見つけたときは胸がときめいたな。内心「やたっっっ」と思いながら買い込んだよ。いやー,これ欲しかったんだ。

中身はNHKで放送された全10回のドキュメンタリーなんだけど,豪華解説書込みで特製の布地張りボックス付きってやつだ。すでに昭和は遠くなりつつあったが,だからこそ,映像資料のコレクションとして前々から欲しいなと狙っていたのである。

それから,こちらは3階から飛び降りるくらいの覚悟で買い込んだのが「ドイツ週間ニュース」というやつ。戦前のドイツの,主に軍国主義礼賛のためのプロパガンダ映像作品のコレクションである。体制の宣伝のための映像なので,公平なドキュメンタリーではなくて,まあフィクションとして見るべき代物だ。でも当時の軍事関連映像としては実に貴重なシーンの数々が登場するので,コレクターの血が騒ぐ内容になっている……と思う。

今ならもっと冷静な買い物をするはずだが,当時はとにかく珍しい映像資料をたくさんコレクションしたいという熱に浮かされていたのだ。

なんでそんな欲求があったのか,今となっては想像するしかないけど,たぶん僕にはありとあらゆる貴重映像のすべてをコレクションしたいという欲望があったのだろうと思う。コレクターには大なり小なりそういった本能があるはず。つまり究極的には森羅万象を我が手に,という思いがあるんだね。要するに神さまになりたいってこと。

当時の異様な情熱を思い出すと苦笑するしかないが,いくつかの企画モノのボックスはLD全盛時代の夢のなごりとして今でも棚に並んでいる。現役で楽しんでいるタイトルもあれば古本同然のものもあるが,とりあえずこれからも大事にしてあげようと思っている。静止画を多用しているものが多いのでDVDにバックアップするのが難しい。それが目下の悩みである。