カメラが地球からどんどん遠ざかる映像の本家本元

■Powers of Ten■

ある画期的な作品が登場するとその中で使われていたユニークな映像表現がひとつの手法として定着することがよくある。

たとえば「2001年宇宙の旅」のオープニングの太陽と月と地球が一直線に並ぶシーン。また「スターウォーズ」冒頭の巨大宇宙船の下部を延々とカメラがなめていくシーン,あるいは「ブレードランナー」の酸性雨降りしきる退廃的な都市の風景など。

これらは山ほど亜流を生み,その多くはオリジナルを越えられないままいつの間にかスタンダードな映像表現の1テクニックとして定着している。まあオリジナルがそれぞれあまりにも強烈なのであえてこれらのテクニックを使うというのは難しい面もあるんだけどね。

さて,そういった今でこそよくある手法にも必ず最初にそれを試みたパイオニアがいる。前記のそれは誰でも知っているが,ではこういうのはどうだろう。

地上の風景を写していたカメラがどんどん高度を上げていく。高さ10メートルから見た景色,高さ100メートルから見た景色,そしてどんどん高度が上がり,1キロ,10キロ,100キロ,やがて衛星軌道に達し惑星規模に,地球が見えなくなってもさらに高度は増し,太陽系を出て銀河へ,そして宇宙の果てへと遠ざかる。

アニメやSF映画,NASAのCGなどでしばしば目にする表現だと思う。この手法のオリジナルは僕の知る限りアメリカのデザイナー兼映像作家チャールズ&レイ・イームズ夫妻の「Powers of Ten」という短編であろうと思う。

このIBMの委嘱を受けて制作された約9分間のフィルムは,見るものに極大から極微の世界までを貫く宇宙の構造の不思議さを感じさせずにはおかない。一見の価値があるという言葉はこの作品のためにあるようなものだ。

最初ピクニックで芝生に寝ころんだ男性を写していたカメラは画面の中心にその男性を据えたまま10秒ごとに10倍ずつ高度を上げていく。すなわち10のべき乗(Powers of Ten)というわけだ。だいたいどんな絵か想像できると思うが,実際に見てみるとその出来映えと想像力を刺激する理知的な演出に思わず声が出る。

パイオニアが出していた映像の先駆者シリーズの1巻。中古で見つけたら何をおいても入手しよう。サイド2のチャプター3である。本作の9年前に作られた習作「Powers of Ten ラフスケッチ」など映像文化に興味のある者には必見の貴重映像コレクションである。

チャールズ&レイ・イームズの世界 SS098-6016
発売元(株)レーザーディスク/パイオニア