紙にこだわる!

いつか来た道

DVDはLD以上のスピードでブレイクを果たして今に至っているが,価格的にもデフレ傾向で,サプルメント満載の,LD時代ならかなり高価な商品になったものも安価に入手できるようになった。ユーザーにとってはまあありがたいことである。

ところでひとくちにサプルメントといってもいろいろある。大まかに分けると

  1. メイキングなどの特典映像やコメンタリーなどの特典音声
  2. 解説書,ポスター,シナリオなどの印刷物
  3. トレカ,テレカ,フィギュアなどのグッズ類

の3つになる。LD時代の豪華な箱ものセットについては以前にも書いたが,最近DVDにも同様の企画が増えてきた。せっかくダウンサイジングに成功していながら大型化の道をたどるというのもなんだが,先輩にならって選別化・差別化の時代に入ったのかもしれない。

DVDの特性を活かした1のサプルメント映像&音声はともかく,今の僕はゴチャゴチャしたおまけのグッズ類には興味はない……のだが,実は活字派の性(さが)か豪華解説書の類にはちょっと魅かれてしまうのである。細かい字がたくさん並んでいるとうれしいというのは映像派,グラフィック派には理解しがたいビョーキであろう。

元々DVDのパッケージはディスク本体以外には空気しか入っていないという感じで物足りなかった。ジャケットを楽しめるほどのサイズもなかったしね。だから同梱のブックレットくらいは充実してほしいものだと思っていたのである。

ブックレット華の時代

1枚きりの解説書と違ってブックレット(小冊子)と呼べるだけのボリュームの印刷物が添付されるようになったのは,LDでボックスものが出るようになってからだと思う。売れ筋はアニメや特撮ものが多かった。「サンダーバード」や「アルプスの少女ハイジ」がリリースされていた頃かな。

ブックレットも最初は雑誌の付録と大差ないただの設定資料集程度のものだったが,高額商品のおまけにしては中身が薄かった。後に映画監督個人の作品集やドキュメンタリーなど企画が豊かになるとかなり力の入ったものが添付されるようになったが,やはりユーザーの欲求が増したというのが要因だろうか。僕の手元にあるのはわずかなタイトルに過ぎないが,この時期のものでは「赤毛のアン」や「昭和史」などのそれはガイドブックあるいはパンフレットとして充実していたと思う。

しかしこの分野で抜きん出ていたのはやはりディズニー作品だろう。一時期ディズニー作品はスペシャルコレクションと銘打ってボックスものがずいぶん出ていた。そのおまけグッズ類については以前にも取り上げたが,ブックレット類の充実ぶりも最高だった。美麗で資料的価値にも優れ,読み応えもある。

「白雪姫」のそれがベストだと思うが,他にも「トイ・ストーリー」「ファンタジア」「美女と野獣」などガイドブックとして十分なクオリティである。映画の出来以上?に充実していたのは「アラジン」かな。これは今度引っぱり出してみてあらためて感心してしまった。

そのディズニーもLD衰退とともにボリュームが薄れ,末期の「ノートルダムの鐘」あたりになるとボックスでありながらペラペラの解説書のみ。これはちょっと寂しかったな。むろん,作品自体の評価ではない。

副読本というのもある

例は少ないが,充実度という点でブックレットの域を超えて副読本,解説本と呼べるものが添付されたソフトもある。まだLDの未来が洋々たる頃の,百花繚乱の企画の遺産だ。

たとえば旧ドイツ軍のプロパガンダ映像記録集「ドイツ週刊ニュース」というソフトがある。映像本体もたいへん興味深いものだったが,このボックスには「ナチスドイツの映像戦略」という250ページを超えるハードカバーの立派な副読本がついてくる。ソフトの値段を考えればずいぶん割高な代物ではあるのだが,同梱解説書の究極の姿には違いない。

また以前にも取り上げた「マイフェアレディ」のボックスには衣装担当のセシル・ビートンによるこれまたハードカバーの副読本「マイフェアレディ日記」が収められている。こういう企画が歓迎されていた時代もあったということだ。DVDのブレイクがこれほど急でなければ,映画史に残るビッグタイトルの数々はこの手の豪華箱ものとして並んでいたのかもしれない。

そういえば全巻購入特典というパターンもあった。パイオニアから「動物映像大百科」というシリーズが出ていたのだが,その全巻購入特典(実際は最初の2巻だけでよかった)として上記2冊を超える更に大判のハードカバーの解説書がサービスされた。これは解説書兼データブックで,本編ディスクとリンクしているというものだったが,かなりコストがかかっていると思われる1冊であり,特典としてはまず立派なものであった。

新たな展開を望む

テキストをディスクに収録すれば膨大な量が収められることはわかっている。しかしリモコンでスキップしながら読む文章なんてかったるくていけない。紙(本)のハンドリングに勝るものはまだまだ生まれていないのだ。だからこそ電子ペーパーなどのようにディスプレイは紙に近づくことを目指しているのである。

DVDでも今のところ高価なボックス版にのみ「豪華ブックレット付き」というのが相場だが,どうせあのサイズ(いわゆるトールケースね)じゃLD時代のような美麗で大判の印刷物は無理なんだから安価なペーパーバックでも付けるつもりでトライしてくれないものだろうか。

もちろん,ディスクに較べると印刷物はコストがかかる。LDも実はジャケットでけっこうコストをくっていたのだ。

しかし,考えてみると初版数万部の薄手の文庫本が定価400円で出版できるのだから,150ページの文庫本サイズブックレットは十分実現可能だと思う。なんならソフトメーカーはこの部分で出版社と組めばいい。もしかすると新しいメディアミックスの展開があり得るのではないだろうか。

ありがたいことにDVDは今かなりの勢いである。B社とかT社とかいくつか非道なメーカーはあるものの,総じて値下げ傾向,しかもサプルメントはますます増量という状態だ。このトレンドに乗ってブックレットにもLD時代とは違う新たな展開が生まれることを望みたいものである。