次に欲しいメイキング

マンネリもいいけど

DVDはブレイクしてわずか数年だが,その多機能と高画質,あるいはソフトの低価格化やコンパクトさのおかげで,LDが15年もかけて為し得なかった幅広い普及を果たしている。ちまちまとLDを買い集めて悦に入っていた時代も今となっては遠い昔のことのようだ。

そのDVDもいずれはハイビジョン対応になって次世代機に進化していくのだろうが,ソフトが今のように充実するまでには更にしばらくの時間を要するだろう。

そういった外側の事情は常に動き続けているのだが,最近停滞気味なのが各種のサプルメント企画である。予告編とメイキング,インタビューとコメンタリーでだいたいおしまい。ボックスものだとこれに絵コンテ本や厚手のブックレット,キャラクターのフィギュアがついたりする。

それらも楽しくはあるんだけど,やはり新鮮さを感じることは少なくなったと思う。型どおりというかそれ以上ではないよね。特にメイキングについてはすっかりワンパターンが定着して「ほお〜」と思うような面白い切り口は少なくなった。

今となっては亡き伊丹十三映画の正統派メイキングの方がかえって新鮮なくらいである。あれらはメイキングも単独で楽しめるエンターテインメントとして作られていたからね。洋画ではやはり単品としてリリースされた「12モンキーズ」のメイキングが出色の出来だった。

映画製作って当事者にとってはものすごくたいへんなんだろうけど,外野から見ればきっと面白いネタがゴロゴロしてるはず。せっかくメイキング班も作るのなら,そちらのディレクターも「本編の連中には負けんぜ」くらいの腕を振るってほしいものだ。

未踏の沃野

以前,指揮者の小澤征爾氏がオペラのリハーサルをやっているドキュメンタリーを見たことがある。本番のコンサートそのものではなく,その前の段階,ひとつの曲を仕上げていく過程をたどったものだ。

リハーサルが進むにつれ,オーケストラや歌手の息が整い,完成度が上がり,個性が明確になり,響きは美しくなる。その過程が実に面白いのである。ひとつの舞台が本番に至るまでのプロセスは,映画のメイキングもかくやというほど楽しい見物になり得るのだ。

だったら,と僕は思う。

映画における映像部分のメイキングはさんざん見てきたけど,音,特に音楽の製作過程もまた楽しいメイキングになるのではないだろうか。

最近の映画は音楽も効果音も,あるいはトータルな音響デザインもかつてとは比較にならないほど豪華になっている。にもかかわらず,その舞台裏を扱ったメイキングは極めて少ない。サプルメントてんこ盛りの洋画の話題作でさえ,サントラの録音風景と音楽監督のインタビューがちょっと流れるくらいだ。これはあまりにももったいない話ではないか。

現代映画は映像の魅力とサウンドの魅力が拮抗していると言ってもいいのだから,本編の最重要パートのひとつであるサントラのメイキングは絶対に面白いはずと僕は確信している。

企画スタート,作曲家の試行錯誤,曲作りのプロセス,レコーディングのあれこれ,歌手やオーケストラのリハ,スタッフの悪戦苦闘,時間や予算との戦い等々……ね,これ1本のドキュメンタリーにしたらきっと面白いよ。こういうどの映画でも抱えているドラマの鉱脈を,せっかくメイキング班を組織しながらみすみす見逃す手はないよ。

更なる展開は

ここから先は僕の妄想だが,もしメイキングに更なる楽しさを求めるなら,いっそメイキングの企画そのものに対してリクエストを求める,という手もいいかもしれない。

最初からメイキングも作ると決定しているなら,どんな舞台裏が見たいか,どんなインタビューが聞きたいか,そういった要望を一般から募るのである。何しろ今どきのお客さんは好みも細分化されてるし,その求めるところも千差万別だ。今までどおりのメニューだけでは不満もあるだろう。そこで企画スタートの発表と同時にメイキング(サプルメント)のリクエストについても告知するわけだ。

当然,手前勝手なわがままばかり寄せられて困るという事態もあるだろうから,最初にスタッフ側から実現可能な範囲をリストアップして提示する,というやり方でもいいかもしれない。それでも今よりはずっとバラエティに富んだサプルメントが登場すると思う。

以下の企画の中で実現してほしいものがあればチェックして「送信」ボタンをクリックしてください……とかなんとか公式サイトでやるのである。もちろん,最初から月並みなアイデアが並んでいるようでは今と変わらない。スタッフ側もここで度量と柔軟さをおおいにアピールしなくてはならないわけだ。だから

・激突!監督が挑む予算獲得の過酷な闘争!
・信念とわがままの狭間で揺れるヒロイン役○○○○の一度きりの本音
・初公開!全製作費の完全明細

といった本編のメイキングとはあまり関係のない企画が並ぶかもしれないが,それこそスタッフ側の力量次第ということだ。うまい具合に意表を突く企画がいろいろ生まれてくれば,少なくともサプルメントマニアとしてはありがたい流れだと思う。

ちなみに,ほとんどメイキングで触れられないけどものすごくたいへんな撮影のひとつに「ベッドシーン」というのがあるのだが,これリクエストしちゃダメかなあ。真面目な要望のつもりなんだけど,ここでそれを言ったら語るに落ちたなということになるのだろうか。