リピーターを優遇せよ

リピーターになる

人が「好きな映画」という時,そこにはおおよそふたつの意味がある。ひとつは「好きだから何度でも見たい」であり,もうひとつは「好きだから一度限りにしておきたい」だ。つまり同じ好きにも全く正反対のスタンスがあるということだ。

これはたぶんどなたも納得していただけると思う。どちらの気持ちもよくわかるからだ。長く映画を見続けていればどちらのタイプにも数多く出合うことになるし,どちらも大切だってことは言うまでもない。

他人様のことはわからないが,僕自身の感じで言えば安心して見ていられる娯楽作品は前者で,感情移入度の強い悲劇調の作品は後者になるかな。もちろん,ああ,これよかったなーと思った作品の中での話。駄作や凡作の類は問題外だよ。

そこで一度限りの方を選んだ場合は当分再見の機会はなくなるんだけど,何度でも見たいと思う作品に出くわした場合はどうなるか?それはもう決まっている。リピーターになるのである。

愛の反芻作業なのだ

今はDVDで好きな映画をいくらでも手元に置くことができるから,繰り返し再生しているソフトについても同じようなことが言える。でもここであえてリピーターと呼びたいのは映画館へ何度も足を運ぶケースのことである。時間を調整し,その都度お金を使って劇場での鑑賞を繰り返しても苦にならない,むしろ喜びである……そういう状態に陥ったとき,人はリピーターになっている自分に気がつくのだ。

リピーターになるのはもちろんその映画がトータルで気に入ってるからなんだけど,それだけじゃないこともある。どこかのシーンがえらく自分の琴線に触れてきたとか,どうしてもあのシーンが気になってしまうといった,いわばディテイルが訴えかけてくる何かに反応してしまったケースもある。

たとえば,自分が何度も劇場に足を運んだ映画はいろいろあるけど,回数的に最もハマったのは意外にも「魔女の宅急便」だ。以前にも書いたことがあるけど,実はあのエンディングの「やさしさに包まれたなら」が流れるエピローグの部分が大好きで,何度見てもあそこで満足感と幸福感に心が安らぐのを感じる。それがとても気持ちよくて上映中はしょっちゅう映画館に出かけていた。

当時はまだ入れ替え制も少なかったので休日に朝からずっと張り付いていたこともあったかな。宮崎駿って志が高いな〜と思ったものだ。

じゃあ,お前のベストは魔女宅なのかと言われそうだが,これはたまたまそういう時代にそういう気分の自分がそういう映画にぶつかったからということで,他のどんな名作にもその可能性はあったと思う。早い話,映画史に残る名作群の数々というのはこちらが映画ファンになるころには既に劇場では見られなくなっていたのだ。もしリアルタイムで「ローマの休日」や「七年目の浮気」にぶつかっていたらやっぱり劇場にせっせと通い詰めていただろうと思うよ。

リピーターの世界

人はなぜお気に入りの映画を貶されると逆上するのかといえば,こうした自分の大好きな作品にまつわる忠誠とか献身といった気分を汚されたように感じてしまうからだろう。映画評を通じてその映画を好きな自分のハートまで難癖つけられたようで許せないのだ。お気に入りの作品に対しては,ある種の保護欲のようなものが自分の中に生まれているからだ。

この反応を僕は尊重したいと思う。人々よ大いに怒れと言いたいくらいだ。小賢しい駄文でオレ様の大事なものを語るんじゃねえ!と声を大にして言ってやろう。

リピーターにとって劇場に通い詰める日々はまさに愛と忠誠の日々である。最初は何か自分自身に言い訳しているけれども,やがてはそんなことどうだってよくなる。そう素直になった瞬間,それは一本の映画であることを超え,あなたが守り慈しむべき真のお気に入りになるのだ。

それはささやかな自分の一部であって,もう他人に委ねるべきものではない。

……とまあ,このくらい入れ込むようになると立派なリピーターの誕生である。ちょいと大げさかな。でもこうした気分は僕の本音でもある。だから批評家は信用しないけれどラブレターの書き手にはおおいに敬意を表したいと思う。自分もそうでありたいからだ。

リピーターを優遇せよ

そうしてめでたくリピーターになるような映画に出会った場合,それは映画好きとしてはたいへんうれしいことなんだけど,現実問題としてあれこれ出費もかさむ。何しろほとんどの場合,二度見に行けば(時には一度でも)もうそのチケット代だけでその映画のDVDが買えてしまうのだ。

グッズや関連本を買うことも増えるだろう。いくら好きといってもお財布の具合も気になるところだ。

大作・話題作を発表するとき,映画会社も興行各社も口をそろえて「リピーターの獲得を狙います」と言う。じゃあそのために何か特別な手を打っているかというと全然そんなことはなくて,やっているのは普通の宣伝だ。それでどうしてリピーターがつくのさと言ってやろうじゃないか。

リピーターの獲得を目指すならリピーターへの優遇措置を講ずるべきではないのか?たとえばその作品限定の回数券とかね。回数券という言い方がダサいのであればリピート・チケットとでも言っておこうか。バラで使えないようにスタンプなどで認証して2度目からは1000円とかに割引する。

リピーターではなく何人かで使い回しをする人も出てくるだろうけど,そのくらい大目に見よう。1800円だとビデオ化まで待とうという人が劇場に来てくれるのなら,利益率が下がっても商売のチャンスが増えるだけよしとせねば。パンフやグッズや飲食物でだってお金を落としてくれるのだから。

こうしてリピーターを優遇してこそ制作側も劇場側も,そして最終的には観客側もハッピーになれると思うんだがな。