やさしさに包まれたなら

■魔女の宅急便■

なにか気持ちのよいものを見たいな〜と思ってライブラリを引っかき回すと必ず手がいってしまうのが宮崎駿監督の作品だ。重い「もののけ姫」はひとまずおくとしても,いわゆる宮崎アニメの心地よさは格別だ。

今更その魅力についてここでくだくだ書いてもしようがないが,人生の大先輩の優しさとか世界に対しての肯定的な気持ちが伝わってくるのがいいな〜と思う。現役少年少女の感じ方じゃないだろうけど,中年だって楽しませてもらえる懐の深さがすばらしい。

世の中には人気のあるものは批判しなくてはならぬと思いこんでいる心貧しい連中がいる。まことにお気の毒な話である。宮崎アニメに批判的な友人などとはさっさと絶縁した方がいい。僕の本音だ。つきあうだけ人生のムダ遣いというものである。

さて,氏の作品はどれも好きだが,何度も何度も劇場に足を運んだ作品として「魔女の宅急便」は特に愛しい作品だ。チャーミングだし,クオリティは高いし,なんと言っても作品世界の幸福感みたいなものが素敵だ。

特にエンディングの心地よさがもう格別だ。荒井由実の「やさしさに包まれたなら」をバックに描かれるエピローグ部分の幸福感というのはちょっと例がないほど快感だった。このラストの気持ちよさにひたりたいがために僕は劇場に通いつめたのだ。

これがいわゆる予定調和の快感なのか,それとも演出の手管というものなのかはわからない。ただエンタテインメントの作り手として見事に責任を全うしたエンディングであるのは間違いない。

LDではサイド2のチャプター20。このわずか3分にちりばめられたいくつものシーンは,キキがコリコの街に受け入れられてゆく姿をこの上ないやさしさで描き出したすばらしいシークェンスになっている。全米公開するならむしろこの作品だろうにと思うがなあ。

久しぶりに見るとその神経の行き届いた描写にあらためて感動してしまう。王道をゆく者のみが持つ揺るぎなさとでもいうか,グレードの違いが圧倒的だ。

トンボのめげない明るさは原作のとんぼさんとはまた違ったよさがあるし,キキ自身も原作版映画版ともにそれぞれの魅力がある。これは原作と映画が理想的に並立している珍しい例かもしれない。気取った映画という感想もあるらしいが,真摯であろうとするスタッフたちの志がすばらしいと僕は思う。

魔女の宅急便 TKLO-50001
発売元(株)徳間書店/徳間コミュニケーションズ