メモリーズ・オブ・ひょうたん島

私が覚えている2,3の事柄

先日「ひょっこりひょうたん島」関連でお尋ねのメールをいただいたので,記憶を掘り起こしながら返信など書いていたのだが,書いているうちにだんだんいろんなことを思い出してきた。いや面白かったよなあ,あれは。

よっしゃ,せっかくだからこの機会に懐かしの「ひょっこりひょうたん島」にもオマージュを捧げてみることにしよう。

ひょうたん島といえばある世代以上の方には忘れられない名作人形劇だ。ご多分にもれず子供時代の僕にとっても印象強烈で,数々のシーンが今でも記憶に残っている。もちろん数十年前のことだし,かなり努力しないと思い出せない部分もあるのだが,これがテレビ史上に残る傑作シリーズであったことは間違いない。

キャラクターの魅力,ぶっ飛んだ設定,奇想天外なストーリー,秀逸でハイカラな言葉遊び,名曲ぞろいのミュージカルとしての楽しさ。あげていけばキリがない。どれをとっても昨今のお手軽番組とはモノが違うのである。

トラヒゲの商才

人気キャラクターのひとり,海賊トラヒゲ。トラヒゲデパートの社長でもある彼はがめつい金の亡者でことあるごとにひともうけしようと画策しているが,ご承知のとおりたいていは失敗してしまう。それでもたくましく立ち直る陽気さと憎めない性格がいい。熊倉一雄さんの声の演技がまた絶妙だった。

このトラヒゲ,間抜けな商売人の印象があるけど実はそれなりに商才はあるのだ。僕がいまだに覚えているエピソードでこんなシーンがあった。

ある時,島の子供たちが自分の参考書をトラヒゲに売ることになった。ここでトラヒゲはダンプやチャッピのものは美本(勉強してないから)なので高く買い取るのだが,博士の参考書はボロボロだといって安く買いたたく。勉強家の博士はしっかり参考書を使い込んでいたからだ。

ところが後で子供たちが参考書を買い戻すことになった。するとトラヒゲはダンプたちの美本の参考書は安く売ったけど,一番安く買い取った博士のものには高額の値段を付けてしまう。博士のものは書込みや勉強の跡が満載で参考書としての商品価値が高いから,というのである。

僕は子供心にこのトラヒゲの理屈に感心してしまった。確かに言われてみれば納得してしまうよ,これ。トラさんってただのおマヌケじゃなかったんだ。欲をかくからいつも失敗してしまうけど,商人の嗅覚はそれなりに持ち合わせていたんだね。うむうむ。

神秘の人

誰もが認めるひょうたん島最大の強烈個性の持ち主といえばドン・ガバチョ大統領だ。これには異論はないだろう。とにかく異能の人であって底知れぬ意外性の持ち主である。ものすごく俗なくせに大統領としての責任感もちゃんとあるという面白いキャラクターであった。

なんといってもガバチョ役の藤村有弘氏の超絶話芸がすごかった。子供の時にはその値打ちに気がつかずにただ笑っていただけだが,大人になってさまざまな作品に触れるようになると氏のセリフ回しが空前絶後の芸であることを思い知るようになる。

井上ひさし氏はじめ強力な脚本スタッフと藤村氏の芸が合体してドン・ガバチョというキャラクターは天下一品の存在感を放っていたのである。

後に,平成の復刻版「ひょうたん島」が製作され,かつてのファンには実にうれしい贈り物となったが,藤村氏のみすでに故人で参加できなかった。ああ,まことに残念。

さてこのガバチョ氏,時々超人的な才能を見せてくれるのだが,なんと野球でもすごい実力を持っているのである。ある時ピッチャーとして登板した彼は驚くべき魔球を投げて周囲を驚嘆させた。1分間に1センチしか進まないという魔球である。

「これこのとおり何の仕掛けもございませんぞ」と言いつつボールの前後,上下に手を回してみせるガバチョ氏のしぐさを今でもおぼろげに覚えている。物理学の常識に反する,しかし現実であるというこの摩訶不思議なボールに理論派の博士など頭を抱え込んでしまうのだった。なにせボールがバッターの位置に届くのは翌日になるので試合は一時休止となるのだ。

ソングブックを望む

「ひょっこりひょうたん島」はミュージカルとしても数々の名曲を残しているが,残念ながら幻のままになっている曲も多い。僕の中ではちゃんと再現できる曲もあるのだが,ここはぜひともCD化を望みたい。

個人的に特に欲しいなと思うのは「魔女リカの歌」。これでも著作権遵守はこのページの大原則なので歌詞は書けないけど,僕はこの曲が大好きだった。

昔の米国製テレビアニメに「スーパースリー」というのがあって,感じとしてはそのテーマソングにちょっと曲調が似ているかな。軽快でいかにも陽気なミュージカル風,ちょいと(当時としては)モダンで掃除機に乗って飛んでくる魔女リカのキャラクターにはぴったりだった。

ともあれ,名曲ぞろいなのだから主題歌やエンディング曲,トラヒゲや海賊の歌等々,全部手元に置きたいと思う。もしも僕に翼があったら,と博士が歌う曲なんかもうホントに中山千夏さんが上手くてね〜。もちろん大人と子供の唄とかグッバイ・ジョーの歌とかこうして数十年たっても忘れられないのだから当時いかに心に深く刻みつけられたかわかろうというものだ。

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なにぶんにも昔のことなので記憶違いもあるだろうし,霧の中という部分も多い。それでもこうして思いつくままにいろいろ記憶の底を探っていくと,この番組が尋常ならざるパワーを持った歴史的名作・傑作・快作・怪作・問題作であったことをあらためて思い知らされる気がする。

子供時代の出会いや経験というのは実に大きいものなんだね〜。ありがちな結論でゴメン。