テーマソング・コレクター 番外編

三つ子の魂いくつまで

生まれた時,雨の音が聞こえた……などというハードボイルドな述懐をする人も世の中にはいるようだが,残念ながら僕にはそんな古い記憶はない。いたってのほほんとした幼年時代を過ごしたのだろう,小さい頃の記憶はかなり消え薄れている。小学生以降の連続した記憶と違って霧の向こうのおぼろげなイメージでしかない。

しかしそんな幼い頃からテレビっ子だったせいか,人生最初期の記憶というのも実はテレビ番組のそれである。今となっては我ながら苦笑してしまう。

もっとも,テレビ番組の記憶といっても幼児期のものだから内容はほとんど残っていない。要するに主題歌やテーマ曲の記憶である。これは中年になった今でも失われていない。僕が後にテーマソング・コレクターになったのもこういう刷り込みがあったせいかもしれない。まことに音楽の力は偉大である。

おかげで今でも輸入CDショップなどで古い海外テレビドラマのテーマ集などを見かけると病気が再発して?ついサイフのヒモがゆるくなってしまうことがある。困ったものだ。

そう,テーマソング・コレクターにとっては海外テレビドラマというのも重要なジャンルなのである。

時に熱病の如く

物好きな奴が増えたというか,好きなものは好きとはっきり言う人が増えたせいか,最近ではなかなかにマニアックなテーマソング集のCDも出るようになった。いろいろ発掘され,その方面が好きな人にはまずはよい時代であろう。

僕自身はたまにCDショップで掘り出し物があればという程度の集め方なので,いつまでたっても入手できない曲がいくつもある。もっとアグレッシブに探索すれば辿り着けるのかもしれないとは思うのだが。

たとえば上に書いた幼児期の最も印象深い曲のひとつが西部劇の「ブロンコ」だったか「ブロンコ シャイアン」だったかのテーマソングで,「ブロンコ〜ブロンコ〜ブロンコ・レイン〜」と歌うとってもウエスタンな名曲。今でもちゃんとメロディーを覚えているからよほど好きだったんだろう。

知名度では「ローハイド」や「ローン・レンジャー」の方が上かもしれないが,僕にとってテーマソングの印象ということではこの「ブロンコ」が欲しい。

僕よりもう少し年代が上の方のサイトなどでこの番組の解説を読んでいると,おぼろげな記憶の残滓が揺れるのを感じるが,それ以上は思い出せない。ああ,幼児期の1歳,2歳の年の差は大きいな。悔しいぞ。

ブルジョワ同級生宅にて

西部劇といえば,もう少し大きくなってから大好きな作品に遭遇した。小学生の頃オンエアされた「拳銃とペチコート」という西部劇コメディである。いやーこれは面白かったな。おじいちゃんから孫まで一家全員がすんごい銃の名手というファミリーの物語である。

カラー作品であり,既に我が国でもちゃんとカラーで放送されていたが,当時のカラーテレビというのは相当なぜいたく品であり,まだ我が家には縁のないシロモノであった。僕は近所に住むお金持ちの同級生の家に毎週おじゃまして見せてもらっていた。楽しかったな〜。

先日この番組の件でネットをあちこち回っていたら,ストリーミングでビデオをちらっと見せてくれるところを発見。おお,懐かしや〜,そうそう,こんな感じだったなあ,うんうん,確かにメロディーはこうだったなあ,としばし感慨にふけってしまった。以前LDで海外ドラマのボックスがいろいろ出ていた時代にこの作品のリクエストをメーカーに出したことがある。そのくらい好きな作品だった。

当然テーマソングはたいへん印象に残っている。もちろんメロディーは完全に覚えているし,歌詞カードがあればちゃんと歌えるはずだ。ああ,この曲もとっても欲しいぞ。

こだわりは捨てず

以前にも書いたが,こういったテーマソングのコレクションはオリジナル音源こそが命である。カバーバージョンの演奏などちっともうれしくない。したがってCDを買うときにもその見極めが大切だ。特に海外物のコンピレーション・アルバムは当たり外れが大きいので僕もいくつかハズレを引いてしまった。未熟な時代の授業料と思って自分を慰めるしかない。

今のところ最大の当たりと思えるのは「THIS IS...CULT FICTION ROYALE」という2枚組のCD。これはすばらしかった。今までに買った同種のものの中ではまず間違いなく最高の充実度である。まったくイケてないジャケットには笑ってしまうが,よくぞこれだけ集めたりという好企画。かつてテレビにかじりついて見ていた,それ故に耳に刻みつけられたテーマ曲の数々がオリジナル音源で収められているのだ。

長い間欲しいと願っていた「秘密指令S」のオリジナルをこのCDで聴いたときにはほとんど感涙という気分だったし,「プリズナーNo.6」や「スティングレイ」「キャプテン・スカーレット」といったITC系の作品群にも大歓喜。まさか「幽霊探偵ホップカーク」にここで再会しようとは。

欲を言えばきりがないが,とにかくこれだけの版権をクリアしてこの企画を実現させた連中のマニアックなハートに拍手だ。なんか友だちになれそうな気がするな。うははは。

世の中にはこういった記憶(思い出)が全く脱落してしまっている人がいる。不思議と言うべきかそれともお気の毒と言うべきかは微妙なところだが,僕としてはせっかくテレビっ子で楽しい記憶をたくさん持てたのだ,ありがたいと思うことにしている。

まだまだ卒業なんてできないぞ。