怠けてないで買っちゃえ!

三つ子の魂の頃

別項でも触れた「リバティ・バランスを射った男」という映画と同題の曲,最近ずっと聞いております。少なくとも僕にとっては懐かしいという以上に良い曲です。

またまた昔話モードで恐縮ですが,あれはたぶん中学生になったばかりの頃だったと思います。洋楽を聞き始めた時代で,FMのポップス番組などひどく新鮮に感じられたものです。そんなある日,バート・バカラックの特集で耳にしたのがこの曲でした。

その頃の自分がバカラックについてどんな認識を持っていたのか今となっては不明ですが,主に映画音楽の人でフランシス・レイのライバルというような受け止め方をしていた気がします。

記憶が前後していますが,当時ガキだった自分がなぜか「幸せはパリで」なんてオトナの映画を(しかも劇場で)見ていて,テーマソングがたいへん印象的だったことがバカラックの名を知るきっかけだったように思います。あの頃フランシス・レイもスクリーン・ミュージックの大スターとしてたいへん人気があったので,僕の中ではこのふたりはいつもセットで思い出されます。

ちなみに「幸せはパリで」はディオンヌ・ワーウィックの歌が有名ですが,ファースト・コンタクトの強みでしょうか,僕にとってはサントラの女性コーラスのバージョンこそが本家本元って感じです。

で,そのFMのバカラック特集で「アルフィー」とか「何かいいことないか子猫ちゃん」といったおなじみの曲と並んで「リバティ・バランスを射った男」が流れたんですね。当時この曲がどれくらい有名だったのか知りませんが,とにかく他の名曲群を押しのけて僕の印象度はナンバーワン。いったいこの曲の何を気に入ったんでしょうねえ。

原始ハイテクの恩恵

加えて,当時の僕には既にこの曲を繰り返し聞くための最新機器があったのです。

それは小学校卒業記念か中学校入学記念だかで親に買ってもらったソニー製のカセットテレコです。まだカセットデッキはなく,ウォークマンなどは遙か未来のアイテムであり,オープンリールは大人の趣味人の持ち物という頃です。スマートなデザインとそこそこの値段で登場したこのカセットテレコは,素朴な中学生には最先端のオーディオ機器に見えたのですね。うーん,懐かしい。

そのカセットテレコでこのバカラック特集をたまたま録音していたのが運のつき。その後数年にわたってリピートし続けたおかげでバカラックの曲はすっかり僕の頭に刷り込まれてしまったわけです。とりわけ「リバティ・バランスを射った男」はそう。

ジーン・ピットニーの歌うこのウエスタン,メロディーやアレンジもそうだけど,英語がよくわからなくても何やらドラマというか物語を感じさせるものがあったのです。ふたりの男が出ていってひとりだけ還ってきた……なんて部分だけは聞き取れたので尚更そうでした。

ちなみにこのテレコにはずいぶんお世話になり,思い出深い曲はすべてここに入っていました。後の僕の音楽の好みはこのテレコで育まれたようなものです。テープはとっくに喪われてしまいましたが,今の自分のライブラリ,少なくともその一部はこの当時の録音を取り戻すために買い求めたものだったような気がします。

時は流れて

あれから幾星霜……なんて言いぐさはオーバーだけど,今じゃ懐メロもたいていは入手可能になりました。おかげでこの年になって恥ずかしいモノを(時には)買ってしまうことも多々あるのですが,肝心要の大切な曲は意外と後回しになったりします。いつでも買えると思うと安心しちゃうんでしょう。

この「リバティ・バランスを射った男」も最近になってようやく手に入れました。バカラックのCDをちょっと漁っていればとうに入手できていたと思いますが,かつてのカセットテレコ時代から数えて実に30年以上もかかったことになります。

よし,買おうと決心すればあっさり手に入るのですから,これは怠惰であったことの証ですね。

久しぶりに聞いたかつてのお気に入りはやはり名曲でした。英語力は当時から全く進歩していませんが,今じゃ映画版もしっかり見てるし,歌詞対訳だってついてます。何十年もブランクがあったとは思えないほどすんなりと聞き入っているところです。バカラックはやっぱよいなー。

AVファンの人生というのはこうして過去を補完?しつつ本懐を遂げる,その繰り返しなのであります。笑ってやってください。