たのしいえいがのつくりかた

実写もいいのだディズニーは

ディズニー映画といえばアニメーションだけでなく実写作品でもいろんな名作を残している。中でも「メリー・ポピンズ」はジュリー・アンドリュースの魅力と数々の名曲によって非常に人気のある作品だ。

当時は映画版「マイ・フェア・レディ」のキャスティングが話題になっていた(舞台でのイライザ役ジュリー・アンドリュースは映画版には起用されなかった)ときでもあるが,彼女は初主演作になるこの「メリー・ポピンズ」で映画向きではないといわれていた風評を見事に払拭してのけた。

ニューデラックス版LDに収録された特典映像の数々は,この楽しい映画の制作過程を伝えてくれる,まさにサプルメント・マニア必携の1品である。

プレミア気分にひたる

ハリウッドといえばよく目に浮かぶのがプレミア風景である。この「メリー・ポピンズ」のサプルメント映像もワールド・プレミアの模様からスタートする。

1964年8月27日,会場はチャイニーズ・シアターである。"Hollywood Gose To A World Premiere"というタイトルからするとそういう番組があったんだろうか?

しかしプレミア風景というのは華やかでよいねえ。ファンや報道陣が待ちかまえる中,スターが続々と登場し,いやがうえにも盛り上がる雰囲気。夢の工場を自認するハリウッドの最も華麗な風景だろうか。こういったイベントの映像は見ていて楽しいし,コレクションとしても充実感があって僕はとても好きだ。

神様も登場する

そしてこの「メリー・ポピンズ」のそれにはプレミア出席は数十年ぶりというウォルト・ディズニーその人も登場する。生きて動いている彼の姿を見るのは久しぶりだ。テレビ番組「ディズニーランド」での日本語でしゃべる彼(むろん吹き替えだよ)の印象が強い僕には英語でスピーチするディズニー氏の姿にはちょっとあれ?なんて感じてしまった。子供のころの印象というのは根強いものだ。

ところで,このプレミアにはミッキーマウスや白雪姫などディズニー・キャラクターたちも勢揃いでディズニー氏やジュリー・アンドリュースをお出迎えする。これは一見なにげない光景に見えて実はすごいことなんである。

普通,何かのイベントにディズニー・キャラクターを呼ぶというのは権利や契約問題で相当な予算を覚悟しなければならない。マンガにしろドラマにしろ遊園地が登場することは珍しくないが,ディズニーランドが実名で登場することはほとんどない。それをやるのは大変なのだと知れ渡っているからである。だからあからさまにディズニーランドがモデルとわかってもたいていはディズニーもどきである。

しかしディズニーのどんなキャラクターどんなスターでも思いどおりに動かせる人物がたったひとりいる。当たり前の話だが,ディズニー世界の創造主であるウォルト・ディズニーその人である。

観客たちの愛するミッキーやドナルドや白雪姫たちを引き連れて(その中のひとりでもゲストに呼ぶのはたいへんだろう)登場する彼はまさにある意味でディズニー世界の神さまなんだなあ,と感動してしまった。

そのディズニー氏が直接ジュリー・アンドリュースの楽屋を訪ねて出演を依頼したのが「メリー・ポピンズ」なのだ。

夢のつくりかたを楽しむ

プレミア風景に続いて収録されているメイキングを見ていると,なにやら口元がふにゃ〜とほころんでしまう。元々この映画自体が実写とアニメーションの合成で現代のおとぎ話を見せようというものだから当然といえば当然なんだけど,とても暖かいつくりであることが伝わってくるのだ。

それに数々の名曲を生んだシャーマン兄弟が在りし日のディズニー氏のことを語るのだが,ちょっとしんみりしたコメントが当時の状況をありありと浮かび上がらせてくれて印象深い。

この映画は「ロジャー・ラビット」以前では最も徹底的に実写とアニメーションの合成を取り入れた作品だが,ウォルト・ディズニーが若いころからその手法を考えていた例として「Alice's Wonderland」(このタイトルはわかるね)という作品の一部が収録されている。ほんの20秒くらいの短いカットだ。

絵の中の世界で実写の女の子がライオンに追われて木の穴に逃げ込むが,逆にライオンをたたき出して穴から出てくると「やれやれ」という感じで手をはたく

これが1923年作。ほほ〜てなもんである。ちなみに「メリー・ポピンズ」は64年の映画だ。

舞台裏も興味深いぞ

その他にも振り付け師がダンサーたちとリハーサルをしている映像やディック・ヴァン・ダイク(バート役,けっこう謎の人だったな)がアニメーションのペンギンと踊るシーンの制作過程などメイキングらしいシーンも面白い。

しかしそれ以上にファンタジーの雰囲気を伝えてくれるのが静止画で収められた数多くの設定画やストーリーボード,そして実際には使われなかった部分のイメージボードなどの映像資料である。特にイメージボードには独特の世界があってこのシーンが撮られていたらどんな感じになっていたんだろう,と想像力をかき立ててくれる。

また撮影現場でのスチルはモノクロだが,合成用のブルーバックとおぼしきセットで撮影している様子などが収められている。スタッフもキャストも何となく楽しそうに見える。ああ,タイムマシンで見学に行きたいぞ。

そういえばこの予告編

最後に劇場用の予告編が収められているのだが,これは子供のころけっこうテレビのディズニーランドでかかっていたおぼえがある。ああ,そういえばあのときもこの歌聞いてたなあと思ったのはもちろんあのチム・チム・チェリー(Chim Chim Cher-ee)の曲。実際にこの映画を見たのはその数十年後に最初のLD版が出てからで,そのときはひたすらこの曲が懐かしかった。

ついでに振り付けで最も好きなのはメリー・ポピンズとバートが踊るスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(Supercalifragilisticexpiaridocious)の部分。この曲名書くのたいへんなんだよ〜。

ともあれサプルメント・マニアの光の部分を象徴するようなメイキングであった。シアワセ。