設計図鑑賞時代の到来

絵コンテ版の記憶

待望の岩井俊二監督「Love Letter」DVD版がついにリリースされたので早速購入。いやうれしいね〜。そりゃあ「スワロウテイル」も「打ち上げ花火」もうれしいけどやはり大本命はコレだよね。

この映画,劇場で見損ねたのでLDでの初対面だったが,見終わったその夜,感動を伝えたくて友人にメールなど書き送ったものだ。日頃はそんな照れくさいことはしないのだが,それだけ「おお,岩井俊二すばらし〜,中山美穂ステキだ〜,これで邦画も安泰じゃ〜」とうれしかったのである。

このあたりは以前にもちょっと書いたので感想はそちらに譲るとして,今回はなにしろDVDだ。画面はLDより一段と美しく,オープニングのまるでヨーロッパ映画のような香りも上々である。

それに加えてサプルメントがまたうれしい。特に絵コンテ全編収録というのはオマケ映像の新しい楽しみ方として要注目ではないだろうか。

いつだったか岩井監督がNHKの番組に登場したときにこの絵コンテの一部が紹介された。監督はマック使いでサラサラと描いている様子も同時に見たのだが,その絵の上手さに「おおっ」と驚いたことを覚えている。

コレ欲しい!と思って翌日本屋に走った。すでに出版済みと知らされたからである。幸い行動が早かったおかげか扶桑社文庫上下2巻の絵コンテ集を無事入手できたが,同じように思った人は多かったらしく,この直後この本はたちまち店頭から消えてしまった。やはりテレビの影響力というのはたいしたものである。

絵コンテ鑑賞サウンド付き

このとき読んだ「Love Letter」の絵コンテは,アニメーションや特撮映画のそれのようにカメラアングルや監督指示などを細々と描き込んだものではなく,フィルムブックのような作りだった。岩井監督の手になるものだが,ちょうどコミック版でも読んでいるような感じ,というのが当時の感想だ。

当然のことながらストーリーなど本編とは微妙に違う部分もあるが,監督の絵柄にも独特のタッチがあるのでもうひとつの「Love Letter」として楽しむことができる。アナザー・バージョンとでも言おうか,この絵柄がなかなか気持ちいい。

で,このDVDに収録の絵コンテが面白いのは単にオマケの静止画集として収められているのではなく,本編の映像と入れ替えて楽しめるという点だ。セリフや音楽はそのままで画面は絵コンテというのはなかなか面白い。

むろん,絵コンテ自体が丁寧に描かれているからこそできる企画だが,これはサプルメントとしても今後期待できるのではないだろうか。

そうか〜監督はこんな風に構想していたのか,とかこういう構図で撮りたかったのか,という具合にいろいろ想像できて楽しい。映画本編に合わせてあるので文庫版の絵コンテ集とは違う部分もあるはずだが,全編突き合わせたわけではないのでどこがどう使われ,どこが省かれているかというのはわからない。そのうちじっくり確認してみたいと思っている。

ちなみに元の絵コンテにはマックの画面がひとコマだけ登場するのだが,これは本編にはなかった。これだけは当時ふむふむと確認したことを覚えている。

そういえば前例もあった

音声そのままで全編の絵コンテまでも収録というのはLDではなかなか難しい。オマケとして一部分だけというならともかく,全編となるとDVDの大容量がものを言う。でもこういう楽しみ方,LDになかったわけではない。

宮崎駿監督がCHAGE & ASKAのビデオクリップ用に作った「On Your Mark」のLDには本編と一緒に「On Your Mark -Leica Reel-」というテストバージョンが収められていた。これがほぼ同様の企画で,曲はそのまま(効果音はなし)で画面は宮崎監督の絵コンテ/ストーリーボードという構成だった。

そうかそうかこれがこうなってああなるわけか……てな感じだが,監督の書込みの字も所々に読めたりして本編と同じくらい興味深い代物だ。6分40秒という短編だからこそ収録できたのだろうが,さもなければオマケのディスクをもう1枚付けなければならないところだ。

確かに面白い企画なのでこういう特典はこれから増えてくるだろう。

そういえば近々登場予定(今は2001年3月)の「カリオストロの城」や「魔女の宅急便」のDVDには同様に絵コンテ全編が収録されるそうだから,今後は絵コンテ鑑賞時代がやってくるのかもしれない。ジブリ作品だとさぞ見応えもあるだろう。

今後の傾向と対策

新作ゴジラを撮ることになった金子修介監督もマックで絵コンテを描いているそうだし,音声そのままの絵コンテバージョン収録というのがサプルメントのトレンドになる可能性は確かにある。いろいろ面白いものが見られるんじゃないかと期待しているのだが,雑なコンテしか描かなかった作品では発売元が悔しがったりするだろう。特に邦画の実写映画。

さあDVDだ,絵コンテ載せるぞーと引っぱり出してみたらへのへのもへじと見分けがつかない人物らしきものに矢印が1,2本描いてあるだけ,なんてことになったりする。でも流行だからとにかく入れてしまえ,と無理矢理収録する。「貴重な全絵コンテを同時収録」と銘打って売り出すんだけど,音声では甘い音楽とともに

男「君の瞳に乾杯,なんて言った奴もいたっけ」
女「私はバーグマンにはなれないわ」
男「僕はボギーを気取ったことはないよ」
女「昨日まではね」

などと言ってるのに,画面では一筆書きの落書きみたいなやつが2体向かい合っているだけということになる。あまりうれしくない。

そこで本編から逆に絵コンテを作成するなどというたわけた企画が登場するかもしれない。アニメーターがバイトでひょいひょい描いてくれるだろう。ノベライズがあるのなら絵コンテ化があっても不思議ではないが,無意味千万である。映画を作るのもたいへんだ。

……などと妄想はふくらむのだが,予告編も含めて「Love Letter」のサプルメントはよかったぞ,というのが本題だったのだ。脱線してしまった。ぜひ本編ともども御視聴あれ。