「狼の血族」ふしぎの国の赤ずきんちゃん

突然変異か必然の名作か

このホームページの中で最初に書いた原稿は「狼の血族」のワンシーンについてのものだ。それくらいこの映画のイメージは独特の魅力をもって僕の心に焼き付いている。数あるB級ホラー映画の中の1本に過ぎないとタカをくくっている方には信じ難いだろうが,これほど想像力をかき立て,あれやこれやと妄想をたくましくさせてくれる映画はめったにない。

何といっても夢のまた夢的な,どこまでが幻想でどこまでが現実なのか判然としない物語が不思議な魅力に満ちている。妖しい美しさ。グロテスクなシーンがありながら,そのイメージは即物的なスプラッタとはかけ離れた別世界の趣をたたえているのだ。まことに不可思議な映画である。

映像で語りながらなお,その映像の向こうにそれ以上の世界をかいま見させる映画,見る者の想像力を喚起して更なるイメージを予感させる映画,そういった希にみる傑作の属性を,このB級ホラーの1タイトルに過ぎないと思われている作品が備えているのである。偶然生まれた突然変異なのかもしれないが,僕にとっては忘れがたい作品だ。

夢と想像力と美少女と

こういったおとぎ話にひそむ残酷さや不気味さを描いた作品は他にもあるが,この映画のそれはいろいろな暗喩や象徴によってじわじわと心に浸透してくる。そこがまた快感で,見たあとも後々まで楽しめる。

物語自体は一種の不条理劇なのだが,このタッチは古手のアニメファンには割となじみのあるものではないかと思う。たとえば押井守の「うる星やつら2/ビューティフルドリーマー」を気に入っている人なら間違いなくハマる。それどころかこの作品の監督が押井守であっても何の不思議もないとさえ感じるだろう。

ところで別項でも書いたが,この作品の最大の魅力はヒロインのちょっとアダルトな赤ずきんちゃんロザリーンである。演じたサラ・パターソンは当時13歳だったそうだからアダルトという表現はちょっと外れているかもしれないが,狼男とのきわどいやりとりでかいま見せてくれるえもいわれぬ蠱惑的な魅力がすばらしい。

狼男ならずとも「食べてしまいたい」と思う気持ちはよくわかる。ああ,危ないなあ。

カルトを超えて

この赤ずきんちゃんと狼男のくだりもまたこの映画の中で語られる幻想のひとつなのだが,作中最も鮮やかなイメージに満ちた最高のシーンであることは間違いない。しかも狼男と対決した彼女がその後どうなったかというと……これがまた意表をつく展開で更なる幻想を生み出していくのである。

ここでの狼男の変身シーンはその後幾多の作品に強烈な影響を与え,似たようなカットをよく見かけることになった。亜流や模倣を生み出す作品こそ傑作の名にふさわしい,とすればホラー/幻想の分野でおびただしい模倣者を生んだこの「狼の血族」もまた希代の傑作であろう。

そのうえ全編をおおう音楽がまた実に印象的でサントラCDがあるならぜひ欲しいと思わせる出来だ。実際,探したことはあるんだけど発見には至らなかった。今はどうなんだろう?

記憶に残る映画というのは観客の心に多くの"絵"を残していくものだが,その意味でもこの作品はとびきりの力を秘めている。ビデオやLDで見かけたら超おすすめ三重丸作品だ。

ああロザリーンのポスターが欲しいよう。

付記:後日,輸入盤CDのオンラインショップでサントラCDを発見。めでたく入手いたしました。たまには検索かけてみるものですね。