「サンダーバード6号」の未来世界に遊ぶ

世の中万事暗めだけど

新たな千年紀まであとひと月足らず(今は99年12月)というこの時期,小説,コミック,映画にアート,世にあふれるさまざまなイメージの大半は先行きの暗さを感じさせるものばかりだ。現実には核戦争もハルマゲドンも起きなかったけど,そのかわりひどく余裕のない世界がやってきた。夢や希望といった明るいイメージを追いかけるには万事せちがらくなってしまったのだ。

この時代の気分みたいなものは意識せずともいろんなところににじみ出てしまうものだが,映画を見ていてもそのことはよくわかる。様々な問題を抱えていてもまだ明るい未来が拓けていた(ような気がした)時代の作品には今どきの閉塞感は少ない。

たまにはオプティミスティックな作品を見よう。世紀末だからといって好んでダークな気分にひたる必要はないんだからね。

そこで「サンダーバード」だ。明るく,そして世界と人類の行く末に対して肯定的な気分をたたえたこのシリーズは,もっともっと今の時代に見られてしかるべき名作だ。特に1本の映画としても完成度の高い劇場用第2作「サンダーバード6号」は僕の大のお気に入りだ。

ジェントルな未来世界

「サンダーバード」の面白さをいちいちあげていたら何百行あっても足りない。しかしメカやキャラクターの魅力だけでなく,その作品世界の独特なムードもまたたいへん心地よくて,30年以上たってなお人気があるのも実はそのあたりに秘密があるのではないか。

その世界にだって悪人はいて陰謀も犯罪も絶えないし,戦争のかげりはそう見えないけど軍隊だって歴然と存在する。それでもなお,現在のような行き場のない閉じこめられた感じはなくて,人間の理性や科学の進歩といったものがよりよい未来をもたらすという世界観が中心になっている。明るいのである。そこが好きだ。

以前にも少し書いたが,最近は「サンダーバード」を見たことがない世代もいて僕など驚いてしまうのだが,これを体験していないというのは人生の損失だと思うぞ。

とにかく,何度見てもその神経の行き届いた作り込みに感心する。これはミニチュアのことだけを言っているのではない。演出/製作全般が実に粋で,しゃれててハイセンスなこだわりに貫かれており,見ていてうれしくなってしまうのだ。イギリス製だけあって万事俗な米国作品(それはそれで別の楽しさがある)とは一線を画している。要するに趣味がいいのである。

さすがは劇場版

世界各地で起こる事故や災害。驚異のメカとキャラクターたちの勇気ある活躍によってそれらの悲劇から人々を救出する「国際救助隊」のカッコよさ。かつてテレビの前にかじりついていた人たちにとっても劇場版サンダーバードは必見だ。特に第2作「サンダーバード6号」は前作より完成度が高く,ワイドスクリーンの構図に舞うサンダーバードの勇姿が快感である。

アナログ特撮時代の作品だけにCGなど皆無で,メーターの針の動きや点滅するランプ類の絵柄は今どきのものとは世界観が違う。違うのだが,クリティカルな現代のメカデザイン群とは違って,懐の深さ,余裕といったものが歴然と感じられるのである。このタッチが好きなんだな〜。

子供の頃はサンダーバード2号の独特のラインが大好きだったのだが,大人になって再見すると,1号のロケットとしては無骨なフォルムがとてもカッコよく感じられるようになった。いかにも速そうな飛行音(時速1万2千キロだもんね)とかカメラアングルとか,とにかく見せ方がうまい。

劇場用はさすがにテレビよりワイドな構図が気持ちよく,しかもこのスタッフたちは奥行きのある絵柄にとてもセンスを感じさせる。こだわりと言った方がいいかな。今回のゲストメカである飛行船スカイシップ・ワンとサンダーバード1号,2号,そして同6号を同一画面で見せるときの構図の見事なこと!

こういったそれこそセンスとしか言いようのない映像の魅力は,その後何年待っても日本のテレビシリーズでは(いや映画でだって)お目にかかることはできなかったのである。

ストーリーには触れないが

「サンダーバード」といえば,もちろん登場人物の魅力やドラマの面白さも一流だ。この映画のシナリオは特に上出来で,進行する陰謀と悪人たち,ペネロープやパーカーなどおなじみの顔ぶれの活躍,クライマックスのカタストロフとアクション,サンダーバードの勇姿などを詰め込んでラストまでダレることがない。実に楽しい。しかもこれで90分ないのである。

その上,細かい気づかいというか「おお,こんなところまでちゃんと気をつけてくれてるとは!」といううれしい驚きが随所に見られる。しかもそれが実にさりげなく描かれている。大人の余裕とこだわりが見事にミックスされた仕事ぶりだ。

だから観客側も年齢を重ねるほどにその出来が気持ちよく感じられるようになる。若い頃,あるいは子供の頃に見たことある人もぜひまた手に取ってみてほしい。きっと新たな発見に楽しくなることうけあいである。

ここにある心地よい世界は残念ながら僕たちがたどり着けなかった未来だが,その明るさ,ゆとりのある豊かな世界のイメージは,今の観客たちにとってもひととき楽しい時間を提供してくれるだろう。LDはまだ何とか入手可能だと思う。ワイド画面と字幕スーパーの「サンダーバード」というのはかつてのファンたちにとってもうれしいコレクションになるはずだ。