「スケバン刑事」ケレンもまた心地よし

踊る大捜査線を1ダース

「季節ごとのアニメにすがって生きながらえている」と言われても仕方がないのが今の邦画界。佳作/傑作もあるけど人の口に上るのはせいぜい年に1,2作だ。残念ながら産業とは呼べないほど落ちぶれてしまった邦画の製作状況は,昔の栄華を夢見るお歴々にはさぞや辛かろう。同情はせんけどね。

邦画が娯楽としてコンスタントに集客できなくなったのは企画の貧困もあるだろうけど,プログラムピクチャーと呼ばれた手堅い娯楽作品の製作が激減したせいではないだろうか。話題作やA級大作の脇をがっちりかためたその種のラインナップがあればこそ,途切れることなくお客さんを呼べたのだと思う。大ヒットした「踊る大捜査線/The Movie」など本来なら典型的なプログラムピクチャーといえる企画だ。ああいう作品が切れ目なく製作されていれば邦画界もさぞや元気が出るだろうに。傑作や名作ではなく"快作"と呼べる作品がたくさん出てほしいのである。

埋もれた快作

劇場版「スケバン刑事」はそんなプログラムピクチャーの快作のひとつである。あのスケバン鉄仮面(最初はのけぞったなあ)こと2代目の南野陽子版麻宮サキが活躍するやつだ。確認してびっくり,なんともう12年も前の映画である。87年作。ううむ,いつの間にそんなに時間が経ったんだろう。

初代の斉藤由貴も別の意味でインパクトあったけど,この2代目が僕は一番好きだ。ケレン味たっぷりで原作とは全く別種のぶっ飛んだ魅力があった。ま,ナンノの土佐弁はご愛嬌としてもね。そして劇場版の登場となるわけだが,僕はもうこの劇場版が大好きなのだ。少年ジャンプ的なハッタリときっちり作られたストーリー,定石を真正面から踏んでみせるそのあっぱれな展開と闘うヒロインたちの可憐な姿(あ,この表現はなんか矛盾してるぞ)。これぞまさにプログラムピクチャーのお手本みたいな快作だ。

にもかかわらず,時代は既に「そんなの知らないよ〜」ということらしい。もったいないな〜。

やっぱ2代目でしょう

以前にもちょっと書いたけど,これテレビ放送の翌年の作品なのだが,主演の南野陽子はすでにアイドル顔になっている。ポスターやカレンダーの売れ行きでトップを争っていた時代だ。テレビ版に比べると可愛らしすぎる気もするが,週1のテレビとは違ってスペシャルバージョンならではの楽しさ,面白さに満ちていた。こういう作品をこそ量産して欲しいんだよなあ。

テレビ版での活躍をおなじみのBGMをバックにカッコよく見せてくれるオープニングからして実にノリがいい。娯楽作とはこうでなくては,という気持ちよさである。僕なんかこの劇場版を見て逆にテレビ版のファンになってしまい,全話LDに大枚はたいてしまったクチなのだ。毎月1枚ずつ買っていくのは楽しかったな〜。

あ,書いてるうちにだんだん思い出してきた。そういえば当時テレビでメイキングを見たんだっけ。原作者のカメオ出演とか南野陽子がテレビ版よりアクションが上手くなっていることとか,吹き替え(スタントマン)のシーンとか見たような気がするぞ。

もちろんヨーヨーも忘れちゃいかん

でもってスケバン刑事といえばやはりヨーヨーである。終盤に登場する特製ヨーヨーはちとモーションが大きすぎる気もするが,まあ大目に見てあげよう。それにあの桜の代紋!うん,たどたどしいながらもあの決めゼリフとヨーヨーに仕込まれた桜の代紋を突きつけるおなじみのシーン。お約束とはいえ,いよいよ決戦という盛り上がる場面には欠かすことのできない段取りである。

しかもそのヨーヨーと対決するのがデスラー総統,もとい伊武の御大と来ている。彼の怪演もうひひひとうれしくなる貫禄である。ううむ,また見たくなってきた。

プロットには特に意外性なんてものはないのだが,この場合いっこうにかまわない。こういう具合に進んでくれ,と期待するとおりに展開し,かつおなじみのキャラクターたちとの再会もテレビシリーズの後日談っぽくてよい。

復活せよ,麻宮サキ

正直なところ,僕はその後の南野陽子の映画というのは全然見てないんだけど,この作品とテレビ版スケバン刑事だけでその名を忘れることはあるまいと思う。アイドル映画と荒唐無稽な活劇と手堅いプログラムピクチャーの混血として,手元に置いて損のない1作だ,

しかし,にもかかわらず,こういう面白い活劇が既にLDのラインナップからは消えているのである。まことに残念な話だ。邦画製作/配給各社のやる気のなさはこういった財産の再発掘を怠っているところにもよく現れている。奮起してほしいものだ。

未見の方はビデオ屋に,そしてお持ちでない方はぜひ入手に走っていただきたいと思う。