そもそも「トム&ジェリー」のおかしさを文字だけで表現しようというのが無理なんだが,とにかくこれほどまでに面白いものはぜひとも多くの人に知らしめねばならない。子供の時面白くてそれを数十年後に見直したらやはり抱腹絶倒の面白さだったというのは尋常ではない。いかにハイレベルな作品であったかという証だ。
傑作秀作つぶぞろいの「トム&ジェリー」だが,音楽・効果音との超絶シンクロがすごい「土曜の夜は/Suturday Evening Puss ('50)」などはギャグも演出も作画のノリも絶好調である。これを見ると当時いかに達者なスタッフが集結していたかがよくわかる。
家の主が出かけた土曜の夜,トム君は近所のノラ猫仲間を集めて大パーティーを開く。集まったノラ猫諸君は一流のジャズメンぞろいでピアノやパーカッションでノリノリの演奏を聴かせてくれるのだが,そのシーンの作画と音楽のシンクロがすばらしくて実にごきげんである。相当周到な準備をしなくてはこういった作品は作れない。センスも抜群だ。
安眠妨害でたまりかねたジェリー君と例によって一戦交えることになるのだが,騒音に悩まされるジェリー君の様子までが音楽とシンクロしているので大笑いである。
スペシャルボックス版「トム&ジェリー」のディスク1のサイド2チャプター6である。当たり外れはあるが,総じてこの時代のものは出来がよく,何度見ても飽きない。アメリカ大衆文化のもっとも心地よい一面である。
余談だが,この作品にも登場するトム君の飼い主とおぼしき女性。家の主なのかメイドなのかわからないが,彼女のどぎつさとパワーがすごくおかしい。こてんぱんにやられるトム君の悲鳴というのがこのシリーズのギャグのひとつなんだけど,あのおばさんにひっぱたかれるときのトム君にだけはつい同情してしまう。
ともあれ,21世紀目前でなお全く古びない「トム&ジェリー」のセンスには脱帽である。
このLDボックスは超の字がつくお買い得品だが,昔オンエアされたときの日本語のテーマソングが収録されていないことだけが残念だ。あれ欲しいなあ。
スペシャルBOX トム&ジェリー ML-10
発売元ワーナー・ホーム・ビデオ