さようならみなさん,さようなら

■ゴジラ■

世界に冠たる怪獣王ゴジラ。後のシリーズがいかに堕落しようとも54年の第1作だけは忘れられない。ホントは50年近くもたっていまだに第1作を越えられないのは東宝の怠慢だと思うのだが,まあ今は言うまい。現経営陣が滅びて次世代の体制になれば少しは期待できるかもしれない。気長に待とう。

初代ゴジラの偉大さについてはもうさんざん語り尽くされている。今さら僕などが知ったかぶりをする必要もないのだが,あのモノクロ画面に浮かび上がる黒く巨大なシルエットが印象的だ。総天然色時代のキングギドラのような華麗な悪魔も捨てがたいが,初代ゴジラの天災のごとき蹂躙ぶりも恐ろしい。

疎開なんてセリフには戦後10年もたたない時代の雰囲気が濃厚だが,当時の観客にとって,火の海となった東京が想起させるものは今よりはるかに強烈だったろう。

さてこの映画,一度見たら絶対に忘れられないのが中盤に出てくる鉄塔からの中継シーンだ。

僕はこの初代ゴジラを映画館ではなくNHKのテレビで最初に見たのだが,何しろ子どもだったせいで人間ドラマの部分はろくに記憶に残らなかった。ラストのゴジラが骨になってしまうシーンだけは印象深かったが,真の感動は更に歳月を経た後のことだ。しかし,そんな観客以前の子どもにとってさえ,この鉄塔中継班の玉砕するさまは強烈だった。これだけは忘れがたい。

鉄塔に陣取り実況を続ける報道陣。迫りくるゴジラに対してばしばしフラッシュをたいて自ら死を招いているのだから「おい,逃げろよ」と突っ込みたい気もするが,それは禁句だ。ホラー映画のヒロインが行ってはいけない場所にばかりふらふらと入っていくのと同じで,彼らには物語の神から授けられた彼らなりの行動原理があるのだ……でも逃げるよなあ,普通。

まあ当時の報道陣にはガッツがあったということにしておこう。怪獣に向かっても暴力反対,人権侵害,ついでに地球に優しくなどと訴えそうなたわけた連中はまだ発生していない時代のお話なのだ。

もう待避するいとまもありません。我々の命もどうなるか……今右手を塔にかけました!ものすごい力!……さようならみなさん,さようなら……

合掌。今じゃセリフまで覚えてしまっているのは自分でも複雑な心境だが,やはりゴジラといったらこのシーンを抜きにしては語れない。この実況役の人,後にBSでゴジラ特集があったときにゲストで登場し,このシーンのセリフを言っていた。うんそうだろそうだろ,と見ていてうれしかったものだ。

僕の持っているLDは最初期の盤なので音はアナログだしチャプターもふられていないが,サイド2の17分22秒あたりだった。これは映画ファン必携の1枚,どの時期のリリースでもいいから中古セールで見かけたら迷わず買っておこう。DVDは当分期待できそうもないようだし。

ゴジラ TLL 2002
発売元(株)東宝/ビデオ事業室