「奥さまは魔女」最後の魔法

■奥さまは魔女■

「奥さまは魔女」は我が国で最も愛されたアメリカ製テレビドラマのひとつだ。LD時代には作品集のボックスが出てファンを喜ばせてくれたものである。平和な米国の市民生活のシアワセ感が詰まった楽しくも懐かしい世界,僕は一応リアルタイムで見た世代だが,再放送で知った人にもこの楽しさはおわかりだろうと思う。

数々の不安に揺れる現在のアメリカ(今は2001年秋)からすれば泣きたいほど「あの日に帰りたい」という世界ではないだろうか。平和の尊さは政治家が百万言を重ねるよりこういったドラマを見る方がよく伝わる気がする。

僕はこのドラマの第1回の放送を銭湯の番台のテレビで見た覚えがある。なにぶん昔のことで,シリーズ全般については途切れ途切れのイメージしかないが,エピソードのいろんな部分が楽しくてずいぶん笑って見ていたものだ。面白かったねえ。いちいちあげたらきりがないが,ディテイルまで徹底して楽しみたい人には「『奥さまは魔女』よ,永遠に...」というすばらしいガイドブックが出ているのでおすすめしておこう。

僕もサマンサ役のエリザベス・モンゴメリーは好きだったな。北浜晴子さんの声はイコールあこがれの美人の声であったのだ。また,ダーリンという呼び方,呼び名はこのドラマで印象づけられたものである。

ところで僕はリアルタイム視聴世代のはずだが,最終回がどうだったか全然記憶になかった。見ていないのかもしれない。しかし,あちらでは人気番組は第2シーズン,第3シーズンという具合にどんどん延長されるので明確な最終回らしいエピソードというのは存在しないことも多いのだ。それで最終話の印象が薄かったのかもしれない。

LDボックス版「奥さまは魔女」パート3にはその最終話「人の心は謎々」が収められている。何しろ通算第254話(第8シーズンまで続いた)というからたいへんな人気シリーズだったわけだ。

ダーリンがサマンサに贈ったユニコーンのアクセサリにエンドラがまたお騒がせな魔法をかける。そのアクセサリに近づくと人は心の底の本音をしゃべってしまい,離れると元どおり世間体を気にした建前の言葉に戻るのだ。どんなドタバタが起こるかは各自ご想像いただきたい。

一種のシチュエーション・コメディでもあるこのドラマの面白さがよく現れたエピソードである。しかし,日本でいう最終回らしさというのは全然ない。他のエピソードと順番を変えてもどうということはないお話である。アメリカの最終回ってこんなものなのかもしれない。

LDではボックス第3集ディスク5サイド1のチャプター7以降。特にどのシーンというわけではないが,機会があればこの最終話自体を見てほしい。最終話に至ってもサマンサはたいへんチャーミングである。しかもこの最終話で彼女はついに一度も魔法を使わなかった。ダーリンとの愛情は十分魔法に匹敵するということか。

実はこの平和なシリーズもベトナムやウーマンリブで揺れたアメリカの世相を反映しているらしいのだが,そういった細かい分析は前記ガイドブックと供にゆっくり考察されたし。

奥さまは魔女 SPECIAL SELECTION Part 3 PILF-7372
発売元(株)ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/パイオニアLDC