青空の下の体操競技

■オリンピア 民族の祭典/美の祭典■

オリンピック記録映画については以前にもちょっと書いたことがあるが,実に個性的な傑作・名作が輩出している特異なジャンルである。人類のスポーツとナショナリズムの祭典であれば当然かもしれない。被写体として申し分のあろうはずもないからだ。

中でも,ベルリンオリンピック(第11回大会−1936年)の記録映画「オリンピア」は芸術的かつパワフルな映像で圧倒的な評価を得ている名作だ。第一部「民族の祭典」と第二部「美の祭典」の二部構成で3時間半を越える大作である。

天才の誉れ高い女性監督レニ・リーフェンシュタールとヒトラー指導下のドイツとの関わりについては様々なドラマがあったようだが,映画製作者としての彼女の圧倒的な仕事は一目瞭然だ。いかにもドイツ的な芸術的,審美的な豪速球の映画である。

見たことがない人でもちょいとネットで検索すればたちまち「オリンピア」通になれるくらい様々な文章が書かれているので,ここでは何を今さらなコメントは控えるが,とにかく一度は目にしておきたい作品であることは間違いない。たまにはこういう硬派な映画で成熟した精神の仕事を体感するのもいいぞ。

さて「民族の祭典」といえば冒頭の,彫像が人間の姿にオーバーラップして始まるシンボリックな映像が有名だが,見どころはもちろんいろいろある。今回,印象度で選んでみたのがこのシーン。

僕は昔から体操競技のファンで,それなりにいろんな映像も追っかけてきたのだが,この「オリンピア」を見たときには「えっ」と目からウロコが落ちる経験をした。ここでは体操競技は屋外スポーツなのである。体操は体育館みたいな屋内でやるものと思い込んでいたのでホントにびっくりした。

うちの古いLDではサイド3チャプター4の8分31秒あたりから先。観客で埋まった広々としたスタジアム,モノクロ画面でもよくわかる青空と雲,その開放的な空間で行われる床運動や吊り輪や鉄棒……広々しすぎて各競技の"気"が拡散してしまうのではないかという感じがするのだが,映像が力強いのでとても美しく印象的なシーンになっている。特に吊り輪や鉄棒の躍動感は見事で,芸術家監督の映像へのこだわりが実感できる。

また,スポーツの記録映像では観客や審判や役員といった人たちの姿も面白いのだが,この当時は日本もスポーツ強国だったので声援を送る我が先輩たちの姿もあちこちに登場する。加えて,手をたたいて喜んだり悔しがったりするヒトラーの映像などもあって見逃せない。

ともあれ,映像に興味のある人には絶対に外せない一作。その製作の背景もドラマ満載で,いろんなテキストをのぞいてみる価値があると思う。

オリンピア 民族の祭典/美の祭典 IVCL-1015W
発売元(株)アイ・ヴィー・シー IVC