壁画アニメ

■アイスエイジ■

ああ,アメリカの2Dアニメはもう滅びるだろうな……3Dアニメの快作「アイスエイジ」を見ていてそんな感慨を持った。

ハリウッド製の3Dアニメはこんなにも面白い作品が続出するのに,2D作品は今や見る影もない。アニメーション製作は手間も予算もかかるが,なんといってもアニメーターの技術だ。しかし,ビジネス(収益)としても作品の仕上がりとしてもこれほど2Dと3Dに差があると,もう2Dの人材は育たないのではないか?そんな気がするのである。今後は2Dは日本,3Dはハリウッドという棲み分けが急速に進みそうな予感がする。

この「アイスエイジ」もたいへんに面白くてすっかり気に入ってしまった。人気絶頂のピクサー系の作品とはまた違ったデザインと演出,作風が個性的だと思う。

特に動きのタイミングなどはピクサー系が限りなくなめらかであるのに対して,少し「くっ」とアクセントがついている感じで,ちょっぴり日本のテイストに近いかなという気がする。ちょっぴり,だけどね。

それにしてもハリウッド製3Dアニメは面白い。快作率?は相当な打率だと思う。まずシナリオがいいよねー。大人向け実写作品のノウハウやユーモア,粋な小ネタのちりばめ方などうまいなあと感心してしまう。

これはコンピュータで3Dを自在に動かせるようになって,一般映画の製作スタッフが自分たちの得意な分野でアニメーションを取り扱えるようになった,ということではないかな。2Dの時代にはどうしても特殊技能と特殊業界の壁があって専門家以外には手が出しにくかった。ゆえにハリウッドの膨大なエンタテインメントのノウハウが使いにくかったのだろう……と僕は感じている。

この作品も大スクリーンから寝転がってみる小さなテレビまで,どんな形で見ても楽しい出来だ。その気楽さもあって吹き替え版の方がお薦めかな。

物語は西部劇の「三人の名付親」をちょっと連想させるイイ話。氷河期の寒波を逃れて南へ大移動する動物たちの中で,人間の赤ん坊を拾ったマンモスとナマケモノとサーベルタイガーの3匹(3頭というべきか?)がそれぞれの事情を抱えながら赤ん坊を人間たちに届けようと北へ旅をする……主役の3匹のキャラクターにどれもちゃんとそれぞれの個性と背景が感じられるのがいいね。

中でもマンモスのマニーは堂々たる主役ぶりだ。軽口をたたいているようでも実は複雑な思いを秘めている,そんな深さを感じるのだ。

たとえば,洞窟の中に描かれたマンモスの壁画のシーンがある。それを見つめるマニー。するとその壁画が壁画のタッチのままで動き出し,マンモス親子の幸福な時代と人間たちに狩られる悲劇の様子が描かれる。ああ,これはマニーの過去の悲しい思い出なのか。マンモスは群で行動するのに,南へ向かう動物たちにひとり逆らって北へ向かっていたのはこの孤独と悲しみのゆえなのか。人間の赤ん坊を親たちに返しに行く,という成り行きに彼がどれほど複雑な思い味わっていることか……と悟ってハッとする。いいシーンだな〜うまいな〜と素直に思った。

DVDではチャプター12の49分35秒あたり。この水準で見せてくれるのなら,もうアメリカの2Dアニメは息絶えてもいいかな。そんなふうにも思ってしまった1本である。

アイスエイジ FXBA-22236
発売元(株)20世紀 フォックス ホーム エンタテインメントジャパン