つなぎたるロバと出会うジョン・ウェイン

■三人の名付親■

西部劇と日本の時代劇は同じようなジャンルだと思う。どちらもある非常に様式化された文脈があって,あえてお決まりのパターンを楽しむという部分がある。それ故にたくさんの作品が作られたのだと思うが,それだけいろんな作品が作られると中には風変わりなものも生まれてくる。

監督ジョン・フォード,主演ジョン・ウェインとくればこれはもう西部劇の超強力黄金タッグだが,この顔合わせでアクションもガンファイトもほとんどないという一風変わった作品がある。48年製作の「三人の名付親」である。

銀行を襲って追われるウェインら悪漢三人組。水場を求めてたどり着いた場所で彼らが遭遇したのは,うち捨てられた幌馬車の中にひとり取り残された臨月の婦人。あわてて産婆代わりを務めるが,母親は生まれた赤ん坊を彼らに託して息をひきとる。さあどうしよう。

三人のならず者がこの神さまの気まぐれにあわてふためくさまがおかしくも微笑ましい。しかしこの映画では,この後の,赤ん坊を救うために彼らが砂漠をわたる悲壮な旅こそが印象的なのである。

物語の中に「明日はクリスマスだったな」というセリフがあるのだが,実はこの作品,世にいくつもあるクリスマスをモチーフにした奇跡譚に属するお話なのだ。西部劇の時代を舞台にした一種のキリスト教的寓話といってもいいかもしれない。

圧倒的なのは我々日本人の見る自然とは別世界のごとき砂漠の風景である。その荒涼とした広さ,果てしなさは絶望的だ。大陸って広いな〜と素直に感嘆してしまう。三人組は偶然聖書が指し示す(ように見える)神さまの手に引かれてそんな過酷な世界を歩み続けることになる……。

さてロバである。渇きと疲労でよろめき進むウェインはもはやこれまで,と自らの運命を聖書にゆだねる。パッと押さえたページには

つなぎたるロバと子が共にある 解きてわが許へひき来たれ

という一節。こんなところにロバなんて,と聖書を投げ捨てるのだが,何しろこれは西部劇の皮をかぶったクリスマスのおとぎ話なのだ。後の展開はラストシーンまでとても快感だぞ。セリフや細かい演出も実に考え抜かれていてプロフェッショナルの仕事を十分に楽しむことができるはずだ。

LDではサイド2の38分41秒でウェインが聖書に道をゆだねる。そして同41分56秒では……。まだカタログにあるかどうかわからないが,中古でも見つけたら即買いだ。間違いなくあなたのコレクションを豊かにしてくれる佳作である。

原題は "3 GODFATHERS" だから今なら「スリー・ゴッドファーザーズ」だろうが,むろん「三人の名付親」の方が100倍もいい。

三人の名付親 NJL-51000
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ