ジャングルジムのカラス

■鳥■

動物たちが集団で人間を襲うという映画は今までにいくつも作られてきた。パニック映画の典型のひとつでさえあるが,個人的にどれが印象に残っているかと聞かれれば迷わずヒッチコックの「鳥」を選ぶ。

40年も前の作品(今は2002年10月)でありながら,そのスリリングで緊張感に満ちた展開と異常な事件が拡大していく怖さ,そしてなんといってもヒッチコック監督ならではのハイグレードで密度の高い出来映えが秀逸だ。リリースされたばかりのDVDを見るにつけ,子供のころ,この映画に抱いた印象が間違っていなかったことをひしひしと感じている。

パニックシーンもこの手の映画の見せ所ではあるのだが,名監督の作品となると小さな事件が徐々に異常な事態へと拡大していくその過程のスリルが見逃せない。背中がゾクゾクするような"あの感じ"である。そして緊張の糸が途切れたときの爆発的な展開。このくりかえしがスケールアップしていくところがこたえられない。下手な演出家だとこうはいかないもんね。

静かに張りつめていく緊張感と災厄の予感……その最もドラマチックな例として挙げたいのが学校のジャングルジムにカラスが集まってくるシーンだ。

鳥たちの異変が明らかになり,ヒロインは恋人の妹が通う学校へ彼女の安全を確かめにやってくる。ひとまず異常はないとみて校庭のベンチで一服するヒロイン……彼女はヘビースモーカーなのだ……しかし彼女が背にしたジャングルジムには彼女が気付かぬうちに一羽,また一羽とカラスが集まってくる。

そして彼女が空を行く一羽のカラスに気がつき,その行く先を目で追うと背後のジャングルジムには数百羽のカラスが……という展開なわけだ。いやあ,ここはすごい緊張感である。

DVDではチャプター11の69分50秒あたりから先だ。このシーン,カメラは最初じらすかのように彼女の落ち着かない仕草をアップにするだけである。観客はすでにヒロインより先に事態を把握していて「早く気がつけ,後ろを見ろ」ともどかしい思いをしているので,ついに彼女がジャングルジムの光景に凍りついたとき,裏返しの達成感みたいなものを感じて,ある意味快感を覚えることになる。きっとこういうのが見せ方のノウハウってもんなんだろうな。

その他にも煙突を通って数百羽の雀が部屋の中に飛び込んでくるシーンや,パニックに炎上する町を鳥の視点でとらえ,しかもその視点(カメラ)の後ろから鳥の群が降下してくるという,すごく時代を先取りしたカットなど,スタッフのアイデアとセンスが光る名場面が続出する。

字幕がつぶれて見にくいのがちょっとアレだが,付属のメイキングがまたすばらしく充実した面白さ。AVファン必携の一枚である。

鳥 UJSD-34090
発売元(株)ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン