バーブラ・ストライサンドの野望?

■バーブラ・ストライサンド/ザ・コンサート■

歌はいいねえ……ってのは誰のセリフだったかな。

中年オッサンの例に漏れず,僕も最近の音楽事情にはうとい。そんな僕でもバーブラ・ストライサンドが歌手活動引退!という話を聞いたときは本当に驚いた。あんなにすごい歌手なのに?と耳を疑ったものだが,現に「TIMELESS」と称された引退コンサートまで行われている。

結局,コンサート活動からの引退であって音楽活動そのものを辞めるわけではないと知ってホッとしたものだ。

ファンでない人にはちょっと鼻の大きな個性的な顔立ちの女優さん兼歌手,サウスパークでおちょくられてるあの女性か,くらいの認識しかないかもしれないが,実にグレートな女性である。映画監督,女優,そして大歌手……そう,歌手ではなく大歌手。ひとたび彼女のステージを見れば,なんという絢爛たる才能だろうと感動せずにはいられない。

僕自身,彼女の熱心なファンというわけではないのだが,LD時代に買った1994年のコンサートを見て「ふえ〜」と感嘆したクチである。

普段フィーリングだけで気楽に音楽を聞いていると"歌唱力"なんて言葉がこの世にあることも忘れてしまうが,このビデオを見ていると歌手にはこれほど高い境地もあるのだと思い知らされる。上手いなんてもんじゃない,歌ってのはこういうもんなのか……と深く深〜く感動してしまうぞ。

これを生で体験した人たちはさぞや幸福だったろう。この当時でさえ22年ぶりのステージ復帰だったのだから,チケットを手に入れた人にとってはまさに一生ものの幸運だ。僕はLDでの対面だったが,すぐにCD版も買いに走ったよ。これ以前に彼女のチャリティコンサートのLDも見ていたのだが,その時をはるかにしのぐ感動だった。

ステージの緻密な構成,すばらしいパフォーマンス,映像を巧みに使った演出の上手さ,なんというかアメリカのショウ文化の最高のものを集めた一大傑作という感じである。

だからLDに収録された107分はどこをとっても見どころ聞きどころなのだが,ここではちょっと脱線して彼女の意味深?なジョークを聞いてみよう。サイド2チャプター21の14分25秒あたりから。

ここでは彼女が英国のチャールズ皇太子に初めて会った時(1972年)の映像が流れる。彼女がお茶を飲んだカップをそのまま皇太子に渡し,彼もそのままそれを飲む,というシーンが今となっては微笑ましい。でもって「もう少し愛想よくしとけばユダヤ人初の皇太子妃が誕生していたかも」という彼女のコメントに会場はおおいに沸くのだが,こういうセリフが一部のバカどもを刺激するのかもしれないなあ,などと思ってしまった。暗殺予告が届いたりするのはやはり怖かったろうな。

大統領も聞きに来るすばらしい才能。アメリカの宝である。願わくばこの先も長く活躍して,ビデオでいいからまたステージに復帰した姿を見せてほしいものだ。

バーブラ・ストライサンド/ザ・コンサート SRLM1515
発売元(株)ソニー・ミュージック・エンタテインメント