巴里のアメリカ人−クライマックスの破天荒

■巴里のアメリカ人■

黄金時代のMGMミュージカルのハイライトシーンを集めた「ザッツ・エンタテインメント」は確か74年の映画だから,もう四半世紀も前の作品になってしまった。月日のたつのは早いものだ。僕は劇場ではなくそのはるか後にLDで初めて見たのだが,実に新鮮な感動があった。ハリウッド・ミュージカルなどには見向きもしなかった自分にそのすばらしさを教えてくれた大恩ある1本である。

そのトリを飾っていたのが「巴里のアメリカ人」のクライマックス部分だった。これは不思議なというか奇妙な印象の残る世界で,すごいや〜というショックはないのに気になって仕方がないのである。その後リリースされたこの「巴里のアメリカ人」のLDはもちろん即入手したのだが,初めて見たときの印象はますます不可思議なものであった。

ここで述べているのはラストにやってくる長大なダンスシーンのことである。本編のプロットそのものはパリを舞台にしたラブ・ストーリーとして特に奇異なところがあるわけではない。しかしこの作品の価値を不滅のものにしているクライマックスのダンスシーン,これはやはり特筆大書すべき奇妙で不思議でときに切ない名場面だろうと思う。

僕の古いLDではサイド2のチャプター5,41分10秒あたりからおよそ17分にわたって展開されるこのシーン,ガーシュウィンの名曲「パリのアメリカ人」にのってジーン・ケリーやレスリー・キャロンらがルノワールやロートレックの絵画の中の世界で踊る,という破格の構成となっている。

恋人と別れ傷心のケリーが見る一幕の幻想として描かれているのだが,見れば見るほどよくできていて感心する。同時に,あらゆる奇策を試してきた制作者たちが放った極めつけの変化球のような趣もあり,慣れないお客さんには突飛に過ぎて受け入れにくいかもしれない。

MGMミュージカル史上の最高傑作ともいわれるこの作品だが,この長大で幻想的なシーンはぜひとも手に入れておきたいところだ。ちなみに現在ではもっとクオリティの高いバージョンが入手できるが,初期版を中古で見つけたら買って損はない。

巴里のアメリカ人 FY134-24MG
発売元 MGM/UAホームビデオ,パイオニア