これを書いているのは２００３年も明けた１月６日。さすがに正月気分も抜けてただの月曜日である。元日には「今年もどうぞよろしく」と年頭のごあいさつを載せるはずが，とうとう何もしないうちに世間は連休モードを終えてしまった。なんだか怠惰になる一方という感じがしてちょっと情けない。
通常時より一段とつまらない正月ＴＶの間に少しだけＤＶＤなど見て，年賀状をながめ，雑誌をパラパラめくって合間に空いた小腹を満たすともう寝る時間だ。このペースでよければ１００年だってあっという間に過ごせそうな自分がコワイ。前世はミツユビナマケモノだったのかもしれない。
寝っ転がって映画など見つつ，おまけの予告編を横目でながめているとふと感じるのだが，最近の映画の予告編，特にハリウッドのそれは異様なまでにカット割りが細かくなってないか？
１カットが１秒以下のシーンが猛スピードで並んでいるという感じだ。当然カット数はめちゃめちゃ多い。
そういえば，だんだんこの傾向が強くなるなあと感じていたことを思い出す。スピーディーといえば聞こえはいいが，僕のように認識がスローモーな人間には"今，何が映ってたんだ？"と呆然となってしまう。どの映画も予告編だけ見るとやたら爆走しているような印象を受けてしまうのである。
そんなことを思っていたら，このナマケモノの頭脳に年に一度の閃きが訪れた。珍しいことである。が，とにかくこのハリウッド予告編群の異常な加速感についてひとつの考察が訪れたのである。
ハリウッド映画の予告編はサブリミナル広告の領域へ入り込もうとしている……のではないだろうか。
サブリミナル広告やサブリミナル効果についてご存知ない方はちょいと検索をかけてみよう。それがどんな代物でどんな歴史があって，ということはすぐにおわかりになるはずだ。要するに通常の映像の流れの中に１コマとか２コマといったごく短い別のカットを挿入することによって，視聴者の通常の意識の下にメッセージを植え込むノウハウである。
例えば映画の中にところどころ挟み込まれた"炎"の１コマは意識には残らないが，識域下では火，熱い，のどが渇く，というような反応を生み出して売店の飲み物の売り上げが増す，といった効果があるらしい。僕はずいぶん昔に読んだ催眠術の解説書でこの手法について知った。なるほど，そんなことができるのか，と感心したことを覚えている。
詳しい規定は知らないが，確かＣＭなどでは禁じられていたのではなかったか。こっそり暗示を仕掛けるようなものだからだ。フェアではないと指摘されるのも無理はないが，最近のハリウッド予告編の猛烈に細かいカット割りは意図してのことかどうかはともかく，このサブリミナル広告に近いスタイルになりつつあるのではないだろうか。
映画の映像は秒速２４コマで，残像効果を利用している。しかし，１秒に３カットも詰め込めば，これはもうサブリミナル広告で挿入される暗示映像と大差ない短さだ。
猛烈なスピードとカット割りの細かさで派手なアクションシーンを見せられ，すげえ〜，迫力あったなあと嘆息しつつ，実は何が映っていたのかよくわからない，でも見に行かなくちゃという気にさせる……もう立派なサブリミナル効果である。これが最近のハリウッドの予告編の目指すところではないだろうか。心当たりのひとつやふたつある方もおいでだと思うぞ。
更に，もしこのテクニックが進めば，将来の予告編は"複合型"に発展するかもしれない。どういうことかというと，表向きは「ロッキー５」の予告編でありながら，その中に埋め込まれた複数タイプのサブリミナル・スポットによって，ある人は「チャーリーズ・エンジェル」の新作を見に行くぞと"突然"決意し，またある人は「子供と一緒にピーターパン３に行かなくちゃ」と"ふと"思うのである。
つまり，見る側の嗜好や客層によっていくつかの違った反応を引き起こす別々のサブリミナル効果が仕組まれた予告編である。ハリウッドと広告会社と心理学者チームが組めば十分可能だと思うが，もしかすると既に始まっているのかもしれない。
ところで，サブリミナル広告は識域下に訴えなければ効果が薄いと思われるが，時にそれを意識的に見極めてしまう人種も存在する。日本のオタクなアニメファンなどその一例だ。彼らは画面中を無数に乱れ飛ぶミサイル群の猛烈な描き込みの中に一瞬登場するアニメーターのお遊びカットを，瞬時に判別する異様な眼力を持っている。
ガンダムの激しい空中戦の中に一瞬鉄人２８号が飛ぼうと，戦艦のブリッジの数多くのモニターのひとつに１コマだけ裸の女の子が映ろうとも，彼らの動態視力を越えた異常な眼力は決して見逃さない。こんな連中には暗示映像を挟み込んで広告効果を得ることは難しい。サブリミナル予告編の天敵である。
が，いかんせん，彼らの超感覚はメカと女の子しか判別できないので，サブリミナル映像の替わりに１コマ「押井守」というクレジットを挟み込んでやれば「攻殻機動隊」や「パトレイバー」のＤＶＤが急に売れ始めたりするかもしれない。
ま，相手を見て戦術を考えろということだね。オチが薄くて申し訳ない。
