待つ男

待てば海路の日和あり

新しい世紀になって数年,既に21世紀という言葉にもとりたてて新しさを感じないし,20世紀という響きもずいぶん遠くなった。まるで教科書の中の記述みたいに歴史の中に埋没して遠ざかっていく感じだ。今はただの"日常"が続くのみである。

しかし,コレクターとかマニアとかいう人々はまだまだ20世紀を引きずっている。マニアなんて言い方を毛嫌いする人には"こだわり"とでも言おうか。

僕もテレビや映画の思い出に連なる品々はたいがい手に入れたが,それでも数十年を待ち続けているあれやこれやはいくつかある。だからそういったものが思いがけず店頭に出現したりすると,その喜びは半端ではない。

おおおお〜,あの遠い日々から幾星霜,ついに我が手に来たか〜

と大げさな感動のセリフをまき散らし,そこらじゅうを跳びはねて快哉を叫ぶのである。他の人にはピンとこなくても,当人にとっては欠落した過去を補完する貴重なワンピースなのだ。たとえCD一枚といえど,コレを入手しない限りオレの人生は完全ではない,そういうこだわりが存在するのである……まあ病気だ。

よみがえるカウントダウン

かつての「宇宙戦艦ヤマト」が画期的だったのはアニメブームを招いたからだけではない。同時に,アニメや特撮もののサウンドトラックを一大マーケットとしてブレイクさせたこともたいへんな功績だと思う。僕のように「あの番組のあの曲が欲しい,この音楽は忘れられない」という人の思いがかなえられるようになったからだ。

おかげでこの分野はLPレコード時代に既に一大ジャンルとなっていたが,当時から望まれながらついに20世紀が終わる日になっても日の目を見なかった企画がいくつもある。理由はいろいろあるんだろうけど,待ち続けた日々は決して短くはなかった。

が,そのひとつが最近実現した。

それが「サンダーバード」のオリジナルサウンドトラックである。いやあ,待ったねえ,これは。なぜ実現が21世紀にまで持ち越されたのかわからないが,とにかくNHKでの最初の放送以来数十年,とうとう出てくれた。今のところ(これを書いているのは2003年夏)輸入盤だが,とにかくこれに勝る喜びがあろうかってなもんだ。

今まで不完全なコレクションならいくつもあったが,これはまさに決定版。エンドタイトルの曲が完全ではないのがいささか画竜点睛を欠くが,まあ目をつぶろう。バリー・グレイの勇壮なスコアと当時のオリジナル音源が幸福なテレビっ子時代の思い出を刺激する。大人になってからLDでもDVDでもそろえているけど,この正真正銘のサントラはうれしさもひとしおだ。子供のころの音楽による刷り込みはかくも強烈なのである。

魔女リカの歌に陶然

思いがけずという点ではこちらの方が驚きだった。「ひょっこりこょうたん島 ヒットソング・コレクション(オリジナル版)」という2枚組CDである。

いやまさか今になってこんなものを出してくれるとは思わなかった。タイトルにオリジナル版とあるとおり,昔のオリジナルの音源によるひょうたん島の名曲集である。全60曲。すげえ〜としか言いようがない。映像自体ごくわずかしか残っていないこの番組の名曲の数々が,こんなにもたくさん保存されていたとは驚異である。

ひとりのひょうたん島ファンとして,この奇跡にも近い快挙をなんと言って讃えたらよいのかわからない。懐メロの神さまにでも感謝しようか。

リアルタイムで見ていた僕は,この番組の中で歌われたいくつかの曲を今でも歌えるというのが密かな自慢だった。こんなCDが出てしまってはその秘めたる特技?も価値を失ってしまったが,なに,そんなことはどうでもいいんだ。今や二度と聞けないと思っていたオリジナルの「魔女リカのテーマ」や「グッバイジョウのテーマ」がいくらでも聞けるのだから。

また,ひょうたん島と言えば何といってもドン・ガバチョのキャラクターが際立っているが,それも故藤村有弘氏のすばらしい芸あってこそだ。このCDではその元祖ドン・ガバチョの隔絶した芸がたっぷり味わえる。いやもうすごいねー。聞きながら思わずその芸達者ぶりに笑ってしまうよ。こんなすごいパフォーマンスを見せて(聞かせて)くれる人も番組も今では皆無だ。

あの「みなさぁ〜〜ん」や元祖インチキ外国語芸が聞けただけでも感涙!である。

欲を言えば海賊たちの「なぞなぞソング」も聞きたかったし,魔女リカの歌にはブヨョーンという掃除機の効果音(彼女は掃除機に乗って飛ぶのだ)も欲しかったと思う。思うが……今はこれで満腹だ。

最後のピースはどこに

ひょうたん島は平成になって美しいカラー版でリメイクされたが,そちらもLDでヒットソング集が出ている。リメイク版は可能な限り昔のメンバーを集めているので,今聞き較べてもオリジナルに対する再現性はかなり高い。藤村氏の不在はいかんともしがたいが,リメイクとしては最善のものであったと思う。できれば今回のCDと併せて持ちたいところだ。

サンダーバードにしろひょうたん島にしろ,なんで今になってとも思うが,ずっと待っていた代物だけに素直にありがたいと思う。

こうして僕は欲しかったあの曲この曲を手に入れるごとに過去を補完しているのだが,実を言うと,そうした作業はもうかなり終盤にさしかかっている。メディアのアーカイブ類はいよいよ充実する一方なので,どうしても欲しいと思っていた曲や音楽(テレビや映画関係のね)の収集はもうあと数曲を残すのみ,というところまで来ているのだ。

少なくとも元テレビっ子としての過去については,あと数個のピースが埋まるだけで完結してしまいそうな予感がある。そうなったとき,今までそうしたライブラリーの充実に努めてきた自分がどう感じるのか,どう変わるのか,いささか興味がある。もしかすると過去への執着が消えてしまうとか?でもまあ,その最後の数ピースが難関なんだけどね。

待ってみようとは思っている。