第3の道を見よ


映画は映画館で見てこそ映画である。およそ映画というものに関わる人すべてが声高にこう主張する。当然の話だ。画面の設計段階からテレビのフレームとは根本的に違う絵作りがなされているし,サウンド,スケール,その他すべてがテレビとはグレードの違う世界として成立している。それが映画だ。

だからガチガチの劇場派にとって,ビデオで映画を見ることには一種の後ろめたさがつきまとう。大画面テレビの近接視聴と小さな劇場の後部座席で見るそれとでは,相対的な視野においてあまり差がないかもしれない。にもかかわらず,実際の映像体験としては歴然とした感覚の違いがある。これはいちいち分析しなくとも実感として誰にでも体感できる事実だろう。

そこで映画ファン,特に劇場派はいくばくかの軽侮も込めて「ビデオなんかじゃこの映画を本当に見たことにはならないよ」とつぶやくのである。

けれど,そんなこと言われなくったって映画館で映画を見る楽しさは誰もが知っている。映画ファンといえどもビデオ視聴に頼らねばならない事情は山ほどあるのである。皆が皆,劇場に日参することはできないのだ。劇場での視聴に比べればその作品の生命が何分の1かに薄められていることを知りつつもレンタルビデオで我慢している人は少なくない。

問題はそういう劇場派やむを得ずビデオ視聴派もそれ以外の可能性を探ろうとしないことである。それ以外の可能性,すなわち第3の道"ホームシアター派"の選択である。

映画はたくさん見たい,でもいろんな事情で劇場通いは無理,だけど映画は大好き,ああでもビデオじゃ不満だ,そういう人は今こそその愛情を自らに対して証明すべきである。

自宅にプロジェクターを導入すべし!

ビデオプロジェクターと80〜100インチ級のスクリーン,LD/DVDとサラウンド,これだけあればビデオ視聴派の世界観は変わる。ウソではない。もちろん設備投資にはそれなりにお金もかかるだろう。だがそれが何だというのだ?車,旅行,アートにコレクション。そもそも道楽というのはお金がかかって当然なのだ。映画が大好きという人間が自分専用の映画館を持てるのである。何をためらうことがあろう。

それと引き替えにどれほどの満足感が味わえるかといえば,これはもう導入してみて初めて知る至福の境地である。

100インチというサイズは劇場のスクリーンに比べれば小さいものだが,それがひとたび一般の住宅に持ち込まれたとき,テレビ視聴とは隔絶した空間が出現する。しかも照明を落とした部屋とオーディオ装置経由のサウンドである。これをわずか3メートルほどの距離で視聴するのだから映画への没入度はレンタルビデオをブラウン管で見ているときの比ではない。その瞬間の満足感たるや「もう劇場はいらない」と本気で思わせるほどである。

そして「映画は映画館で見なきゃ」とか「評判になっているのでビデオで見たけどたいしたことなかった」などというコメントのたぐいがもはや100光年先のたわごとに思えるようになる。大きいことはいいことなのだ。

スクリーンによる映画体験,痴漢やタバコのにおいや不愉快な客など皆無の快適な環境,何よりも映画本来のスケールとクオリティをオリジナルに近い形で味わえるぜいたく感,ハイライトシーンの分析や繰り返し視聴などなど……。劇場派とビデオ派のメリットを併せて所有できるホームシアターこそ映画ファンにとって理想の道楽である。

そんなお金はないとか部屋がせまくてなどと言い訳してはいけない。映画ファンと名乗りながらつまらないことにムダ金をつぎ込んではいないか?たかが大衆車1台程度の投資だ。5年も10年もビデオ視聴に文句を言い続けるくらいなら腹をくくって自宅映画館を導入しよう。大好きなもののために投資するのだ。映画好きなら本望であろう。

フロ上がりに冷たいものなど飲みつつ新作ソフトをプロジェクターで見る。まさに極楽である。この世のものとも思えぬ幸福感だ。

ホームシアター派のみに許された第3の道の悦楽を今こそあなたも。