早う来い,あの1枚

待てど暮らせど

DVDはそろそろ次世代規格の話題がうるさくなってきた。またも複数の規格が争いを始めて我々ユーザーにとっては腹立たしいところだが,まあこればっかりはなるようにしかならない。一般ユーザーは「どちらかひとつに統一してくれ」と言いたいだろうし,マニアだってその方がいいのは同じだ。

ディープな連中には二者択一を無効にする荒技,すなわち迷ったら両方買うという最終手段があるが,普通のユーザーにそれを求めるわけにもいくまい。メーカーの意地とエゴはほどほどにしてほしいものだ。

それはともかく,とりあえずDVDは完全に定着し,ラインアップもLD時代のそれをカバーし(少なくとも映画や音楽,アニメに関しては)もはやほとんどのタイトルは出尽くした感がある。こんなマイナーなものいったい誰が買うんだ?というタイトルもショップの棚にはたくさん並んでいる。よい時代になったと思う。

にもかかわらず,だ。作品的価値もあり,そこそこ売れそうな予感も十分なのになぜかなかなかリリースされない作品がいくつもある。いったいどういう事情なんだろうなあ,と思いつつ待てど暮らせど出てこないあのこのその,のタイトルを思うとせつない気分の今日この頃である。

未知への飛行

新作はほっといてもばんばん出てくるけど,出損なったタイトルは次の機会がなかなかやってこない。だから待ち望んでいるタイトルはやはり旧作がほとんどだ。まず欲しいのはなんと言っても64年のアメリカ映画「未知への飛行(FAIL-SAFE)」である。

偶発核戦争テーマのポリティカルSFあるいはサスペンスもので,昔,友人にすすめられて深夜テレビで見たときの印象が忘れられない。もうこれがむちゃくちゃ面白かったのだ。今のように派手なSFXで見せる話ではなく,緊迫したやりとりでぐいぐいと引き込んでいくタイプ。ドラマの緊張感が実に見事な傑作である。

似たようなテーマではキューブリック監督の「博士の異常な愛情」がすごく有名だし,あちらも傑作だけどこの「未知への飛行」はそれと双璧をなすといってもいい名作だ。特に同時通訳を介した米ソ首脳の息詰まる交渉シーンが印象的。ブッシュのような戦争バカには決してできない究極の選択を迫られた米国大統領の決断と壮絶な決着……。テレビで見たときの吹き替えが見事だったのでぜひそのバージョンで見たいものだと思っている。

実はDVDも以前一度出ているらしいのだが,戦争映画のボックスものの1枚としてのリリースだったので手が出せなかった。さすがにコストってものを考える歳になったってことだね。すぐにバラ売りも出るだろうと思っていたのが失敗だった。どうなってるんだろうなあ。

頭上の脅威

同じく,昔テレビで見て以来ずっと欲しいなと思っているのに果たせないままなのが65年の「頭上の脅威(LE CIEL SUR LA TETE)」だ。フランス映画だと思っていたが,調べてみると製作はフランス/イタリアになっている。

恋愛や人生にしか興味がなさそうなフランス映画には珍しい大規模なSF映画で,宇宙から接近する未知の飛行物体に対する人類(というか仏海軍)の戦いを描いたもの……なんだけどもうだいぶ細部はあやふやだ。だからこそじっくりと見たいのだが。

とにかく印象強烈だったのは舞台となる空母の圧倒的な存在感だ。フランスが誇る新鋭空母クレマンソーが全面協力,その装備やディテイルがミリタリービデオさながらに描かれているので当時ガキだった僕にはたとえようもなくカッコよかった。うわーと口を開けて見ていたかもしれない。男の子には小さいときからメカに憧れる本能があるのだ。

しかしこれもないんだよねーDVD。なんでこんな面白い作品を出してくれないんだ?メーカーの怠慢じゃないのか?どうみてもこれより売れそうにないタイトルが巷には溢れかえっているというのに。

TOOMORROW

SFばかりで恐縮だが,もうひとつ欲しいのがイギリス映画「TOOMORROW」である。スペルミスではない。TOMORROWではなくTOOMORROWが正しい。どんな映画かというと製作が70年で日本語タイトルが「オリビア・ニュートン・ジョンのトゥモロー」ということから想像してほしい。

そう,これは彼女の映画デビュー作であり,若々しいオリビアがただもうひたすら可愛い!それだけですべて許せるという作品なのだ。いや実際,ロックバンドと楽しい学園生活と変なUFO宇宙人がからむという脳天気でハッピーな他愛ないお話なのである。とにかくオリビアの可愛らしさは天下無敵,言語道断のレベルであってこれを見た男はみなふにゃーと目尻が下がること請け合いだ。

なのにこれが出ないんだな。日本はおろか本国でも出てない。こんなにお気楽でハッピーな映画なのになぜリリースされないのだ?

実は以前この映画に触れたときにメールをくださった方から教えていただいたのだが,なんでもこの映画のプロデューサー氏が本国における目に余る不評(一週間で打ち切りとか)を気にして自分の存命中はもう二度と公開したくないと公言しているそうな。うーむ,それは辛い。ここにひとり熱望している人間がいるというのになあ。

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映画関係の業界には様々な思惑や事情や権利や,ええとそれからお金や陰謀やその他諸々が絡み合っているとは思うが,いつかどこかの誰かが決断してこうしたタイトルに日の目を見させてほしいものだ。切にそう願いつつ今年はダメか来年はどうかと待つ身のいじらしさよ,と言っておこうか。