2大女優CM対決時代の思い出

おお,この本は!

休日,街の本屋さんをぶらついていると目に留まった1冊の本。芳賀書店刊シネアルバム「オードリー・ヘプバーン」。おおおっ!この本まだ現役だったのか!いやいやこれはうれしいわい,てなもんでレジに直行する。実はこの本,けっこう思い入れのある1冊だったのである。

同社のシネアルバムシリーズは映画ファンなら1冊や2冊はお持ちであろう。ごひいきスターの写真集として定番みたいなシリーズである。最初はA5サイズ,のちに一回り大きなB5サイズのデラックスカラーシネアルバムというシリーズになっている。ちなみにデラックスカラー版の1冊目はオードリーだった。

A5サイズ版「オードリー・ヘプバーン」はシネアルバムの出始めの頃,シリーズ5冊目ということでかなり昔の出版だ。奥付に刊行日が記載されていないのでよくわからないが,僕の記憶では25年以上前であったと思う。むろん,刊行当時に買った……のだが,何度かの引越しの際に行方不明になっていたのだ。不覚だったなあ。

このオードリーの初期版シネアルバムには他の写真集ではお目にかかれないある非常に珍しいフォトが収録されていて機会があればぜひとも取り戻したいと思っていたのだが,な〜んだ,まだ刊行されていたんだ。実はとっくに絶版になったと勝手に思いこんでいたのである。

オードリーのCM出演

このシネアルバムに収められたその珍しい写真というのは,実は彼女が日本のテレビコマーシャルに登場したときのスチルなのである。こう書くとオードリーのテレビCM?そんなの珍しくないじゃん,という声が聞こえてきそうである。事実彼女はいまだに日本の広告業界のヒロインである。だが,よーく考えてみてほしい。みなさんがご存じの彼女のCMというのはみな彼女の主演映画のワンシーンをそのまま流用しただけのものではないかな。それはあくまで過去の映画のフィルムを使っているだけに過ぎない。

そうではなく,オリジナルのテレビCMに文字どおりオードリー・ヘプバーンが「出演」したことがあるのだ。それも日本企業のCMに。

あれがいつごろのことだったかはっきりとは覚えていないが,彼女が43,4歳のころではなかったかと思う。「暗くなるまで待って」以降引退同然だった彼女(実際,オードリー映画と呼べるのはこの作品までだと思う)が日本企業のCMに出るというのでたいへん話題になった。

それは当時ちょっとブームになっていたヘアウィグ,おしゃれ用のカツラだね,今のファッション用語で何と呼ぶのか知らないが,とにかくそのCMに彼女は登場した。ヴァリーエという製品で,貴婦人風のオードリーとかやけに可愛らしいカッコで自転車に乗るオードリー(コレが好きだった)など何パターンかオンエアされたのを覚えている。先ほどのシネアルバムにはこのときの写真が何枚か収録されているのだ。これは貴重だぞ。

ライバルも登場する

そして彼女のこのCM出演にはもうひとつの話題があった。ライバルメーカーも大物女優を引っぱり出して対抗してきたのである。なんとカトリーヌ・ドヌーブの登場である。こちらはラ・フォンテーヌという製品だったかな。

この国で永遠不滅の人気を持つ世紀の大スター,オードリー・ヘプバーンと当時まさに美の頂点にあろうかというカトリーヌ・ドヌーブの競演である。これが話題にならないはずはなく,映画雑誌にも記事が躍ったものである。当時と今とでは洋画スターの「雲の上」度が全然違うのでインパクトも大きかったのだ。

それにしてもぜいたくな話である。両製品ともその後いつの間にか消えていったのは皮肉だが,このデラックスなCM時代のことは忘れられない。日本企業も日の出の勢いだったのだろう。時代が10年ずれていたらマリリン・モンロー出演という夢さえかなったかもしれないなあ。

再会のヴァリーエ

というわけで,こういった洋画スター大物獲得合戦時代の名残として,このシネアルバムの数葉の写真は僕にとってちょっと感慨深いものなのだ。いまだにこの本を刊行してくれてた版元には感謝である。

今見ると懐かしさだけなんだが,そのCMソング(実はまだちょっとメロデイを覚えていたりする)やそれが流れていたテレビ番組のひとコマとかがパパッと思い出の隅から浮かんできて「んーオレもあのころは若かったなー」などとひとりごちるのであった。

ああ,もう手放せないぞこの1冊。