祝!平成ガメラ3部作完結

初日のわくわく

99年3月6日,待望の「ガメラ3/邪神覚醒」公開。平成ガメラシリーズの掉尾を飾る完結編である。製作決定の告知以来ずっとこの日を待っていたが,ついにこの目で見ることができて感慨もひとしおだ。いや面白かったな〜。

封切り初日の初回に劇場に出かけたのは久しぶりだ。わくわくしながら地下鉄に乗り込むこの気分,いやもう最高だね。

考えてみると昔はけっこうそんなイベント参加みたいな気分で映画館に出かけたものだ。今回のG3では試写会に応募しなかったのでこの日が待ち遠しくて仕方なかった。夏休みに東宝怪獣映画の新作を待っていた子供のころに逆戻りである。

日本のセンス・オブ・ワンダー

モンスター映画や恐竜映画はともかく,怪獣映画というのは日本独特のジャンルだ。客観的に成功作と呼べるものはほんのひとにぎりだが,子供時代にその洗礼を受けたせいで忘れられないタイトルも多い。

まあ男の子(とそのなれの果て)だけのことかもしれないが。

ハリウッド製モンスター映画では怪獣映画の喜びは得られない。今回のG3でそれを確信した。何かが違うのである。いくらディズニーアニメの技術や物量がすさまじくても決して日本アニメの代用にはなり得ないのと同じだ。物質文明がすべてを覆い尽くすあの国では,物質を超えた破壊神を描く精神は育たないのである。

「ガメラ3」は怪獣映画の最終形態ではないかと思う。今まで怪獣映画のネックであった和製SFX(特撮と言うべきか)の限界を越えたその先に,日本の映像作品の可能性がかいま見える。日本のセンス・オブ・ワンダーである。

おそるべし前田愛

って書いてて自分でも照れくさいなー。でも正直たいした子だと思う。テレビで見たキャンペーン中の彼女はホントに年相応のかわいい女の子で,映画の中の比良坂綾奈とはずいぶん落差がある。落差があるということは演技力が半端じゃないということだ。地で演れるなんてのは俳優の言うべきことではないのだ。金子監督はいい時期に彼女を撮ったなあと思う。

幼生のイリスが綾奈を抱き寄せて融合をはかるシーンなど絵的にも非常に難しい場面のはずだが,情感豊かに盛り上がる音楽も最高で見事な仕上がりだった。いやーあそこはよかった。それも前田愛あればこそである。彼女なくしてあのシーンの成功はあり得まい。

もうひとつ,京都駅で綾奈がイリスに向かって「(ガメラを)殺して!」と叫ぶシーンがある。本編ではこのセリフは2度出てくる。テレビスポットで流れていたのは2度目の方。しかし最初の「殺して!」の方は凄いぞ。なんというか非常に生々しい感情と力がこもっていてどきっとしてしまった。啖呵を切ったり地声ですごんだりするのとは違う。明らかに言霊がこもっているセリフだった。たいした才能だ。

大河怪獣ドラマ

ストーリーと人物の配置に不満を漏らす人も多い。確かにG3だけ見て物語のバックグラウンドを理解するのは難しいだろうと思う。オープニングなどでその手当はなされているが,一般の観客にはまだ十分ではないかもしれない。

しかし平成ガメラシリーズを3部構成の大河ドラマと見れば,これは実に見事な完結編だ。黙示録的なエンディングの「その後」は観客の想像力にゆだねられており,物語というものを楽しむすべを心得ている人にはなまじの大団円よりはるかに印象的だ。

映像は最高。天に舞うイリスの夢幻的な美しさは凄絶でさえある。雲海上で繰り広げられるガメラとイリスの空中戦,渋谷上空の雲の上を横切るプラズマ火球の弾道の光,雲間から降臨するイリス……ゴジラシリーズにはない「空」という舞台が最高に生かされている。

日本でこれほどの画面が作り出されたことはかつてなかったし,今後も容易には現れないだろう。これを見るためだけにでも劇場へ行く価値は十分にある。

1999年という黙示録的時代に登場するにふさわしい映画であった。