黄金の洋楽懐メロ大全を見る

もしやLD最後の光芒か

クリスマスである。これを書いているのも正真正銘1999年の12月25日だ。季節のメリハリはどんどん薄れて昔からある行事や暦の節目もいまや廃れゆく一方だが,さすがにジングルベルのシーズンだけは別格だ。日本人の宗教観は諸外国よりずっと寛容なところがあるから,異教のイベントでありながらクリスマスはしっかり定着してしまった。たとえ中身が本来のものから大変貌していてもね。

みなさんはこの時期いかがお過ごしだろうか。

サンタクロースも,働く中年男にまではプレゼントを配る余裕はないだろうから僕は僕自身のためにひとつだけ買い物をした。「エド・サリバンショー」のLDセットである。

「エド・サリバンショー」といえばかつてアメリカでたいへん人気のあったテレビのバラエティ番組だが,同時に,大物アーティストが続々登場する音楽番組でもあった。その音楽番組としての「エド・サリバンショー」から数々の名曲・名シーンを集めたのがこのLDボックスである。

抵抗不能!

僕のようなくたびれた中年にもアメリカンポップスに熱中した時期があった。そのころの曲は今でもメロディを聴くだけで懐古モードになってしまう。うれしくもありやっかいでもある。

ふだんから「昔話にうつつを抜かしているようではいかんぞ,男は前向きであらねば!」などとアナクロなことを口走っているのでこういうソフトに接するとたちまちおのれのセリフを裏切ってしまうことになるからだ。

試しに中の1枚を取り出してプレーヤーにかけてみる……。もうあかん,予想していたことではあるが,あまりの懐かしさと心地よさに抵抗できない。ちょっと見てみるだけだったのに途中でやめることができないのである。60年代から70年代にかけての曲が中心なので,僕自身の洋楽体験にそのまま重なってしまうのだ。

ジャクソン・ファイブの少年マイケル・ジャクソンが実に健康的で感心しているとシュープリームスが出てくるわ,カーペンターズが出てくるわ(カレンはホントにいい声してる)で感激。いやまさに黄金時代。

さ,ここらできりあげようかと思ったら聞き覚えのあるメロディーが……な,な,なんとこれは映画「明日に向かって撃て!」のテーマソング「雨にぬれても」じゃないか!それも本家本元B.J.トーマスである。うっひゃー初めて動いている彼を見たよ。なぜ他の連中みたいにフルネームでなくびーじぇいとーますと頭文字付きで呼ばれるのか,というのがいまだに僕の素朴な疑問である。

フィフス・ディメンションをご存知?

さて,僕がこのソフトで最もうれしかったのはかつて大ファンだったフィフス・ディメンションの曲が3曲も収録されていたことだ。60年代後半から70年代前半にかけて活躍した黒人5人組のヴォーカル・グループである。

一般には「輝く星座」で有名だが,黒人のブラックな感じとは全然違う都会的で洗練されたコーラスがすばらしかった。メンバー各人が実力派で,ライブでもスタジオ録音と変わらぬハーモニーを聴かせてくれる最高の連中だった。僕が最初に買ったLPも彼らのアルバムである。

このLDボックスではだいたい1アーティストにつき1〜2曲ずつ聞けるのだが,3曲も収録されているのは番組に,そしてエド・サリバンに気に入られていたということだろうか。

以前,アメリカン・ミュージック・アウォードやグラミー賞の昔の授賞式で彼らの姿をちょびっとだけかいま見た覚えがあるが,今回初めてまともに動いているフィフス・ディメンションを見た。ああ,感動。10年早く生まれていたら彼らの来日公演(確か万博の年)にだって行けただろうになあ。

ロバート・ワグナー主演のテレビシリーズ「スパイのライセンス」には彼らがゲスト出演した回があるのだが,僕はかつてそれを見逃してずいぶん悔しい思いをした経験がある。久々に思い出してしまった。ちなみに同番組にはフレッド・アステア御大もレギュラーで登場していたのだぞ。

しかしまったくもって残念なのは,彼らをはじめかつて一世を風靡した人気アーティスト達の活動期が家庭用ビジュアル機器の時代に間に合わなかったということ。映像付きで欲しいアーティストがいっぱいいるのに,わずかこれだけの映像でしかお目にかかれないとは。権利関係がたいへんだろうとは思うが,今後はこの手のソフトをばんばん出してほしいものだ。

懐メロは歌謡曲のみにあらず

そうこうしているうちにテレビからはまた聞き覚えのある曲が……。うわあ,「プラウド・メアリー」だ!クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルではないか。高校の時,連中の大ファンというやつが同じクラスにいたことを思い出してしまった。

今見ると素朴な演奏なんだが,いやーこれも動いている姿は初めて見たよ。当時は音楽ビデオなんてなかったからクリップといえばフィルム素材をごくごく一部の番組で流していただけだからねえ。いやもう怒濤の懐古モードにひたりきりである。

懐メロといえば日本の夏のNHK特番のイメージだが,ポップスやロックだって30年たてば立派な懐メロだ。その威力たるや想像を超えるものであって,このソフトでもビートルズやローリング・ストーンズ,スティービー・ワンダーやジャニス・ジョプリン,アニマルズにカーペンターズと立て続けに登場されると(しかもみんな若い!)文字どおり抵抗不能だ。この感動はCDでは得られない。

LDボックスの時代ももう終わりだと思っていたが,ここにきてこのような感涙のソフトがリリースされたことは僕にとってまたとないクリスマス・プレゼントだった。ボックスなのでひょいと買うには値が張るシロモノだが,コレクションの喜びが詰まった好企画だ。

しばらくは前向きうんぬんのセリフは引っ込めて,我が洋楽黄金時代のメロディと映像にひたっていたい今年のクリスマスである。