男の子監督

変な言葉だなあ,と思いつつ書いてしまった男の子監督。フェミニズムの人たちは嫌うけど女性監督という言葉はあっても男性監督とは言わない。普通はそうだ。でも先日リリースされた「フィフスエレメント」のLD巻末に収められた短いメイキングを見ているうちに卒然と悟ってしまった。

映画監督にはこれまでの男性,女性の監督に加えて「男の子」監督とも呼べそうな人種が存在する。そう考えるとなにかああ〜そうだったのかあと納得できてしまうことが多々あるんだな。いやあ目からなにやらポロリと落ちた感じだ。

この映画,お話の方はまるでマンガだけどとにかく100億円もかけてるから豪華絢爛というかぜいたくな絵作りである。もちろんバカにしているわけではなくて2時間余りしっかり楽しませてもらったから断固支持である。ああ,お金があるってすばらしい。まあでもこれで100億円というのは少しインフレだよなという気もするが。

で,メイキングの話。ドカンバリバリダダダダドドーンガシャーン。もうこればっか。嬉々として撮影にあたる監督のうれしそうな顔を見よ。これは最高のオモチャを与えられた男の子の表情である。「レオン」のあの繊細な情感はどこへ行ったのだ〜。でもうれしそうだ。

子供のころの夢を果たした作品と言うだけのことはある。タフで強い主人公。神秘的で謎めいた,でも可愛いヒロイン。宇宙をすべる銀色の巨大宇宙船と異形の異星人。悪の権化に対抗し全世界の命運を背負って活躍するヒーローとヒロインの愛の物語。なんてステロタイプ!

でも男の子の夢想ってだいたいこんなもんじゃなかったか?だからここはステロタイプではなく"普遍的"と言ってあげなくては。

銃やミサイルやレイガン(もしかして死語?)を撃ちまくり,派手なカタストロフィを描き,子供のころ夢みた壮大な世界を作り上げる。本望であろう。童心に帰るなんてものではなく,子供のころの自分が大人の(自分の)体を乗っ取ってはしゃいでいる感じだ。なんか羨ましいなあ。

スピルバーグ以後のエンタテインメント系の監督にはどうもこの「男の子監督」のタイプが少なくないような気がする。女性の監督はこんなガキっぽい作品は金輪際撮らないであろうことは確かだ。そう思う。女の子は子供っぽさを忌避したがるし。

男の子監督は成長して男の監督になるのか,それともいつまでも男の子と男が同居したままなのか。どっちにしろなかなか面白い存在である。男の子が成人男性のふりをしているのかそれともその逆なのか。彼らの映画には監督自身の正体もまた描かれているのである。彼らが完全に映画界の覇権を握ったとき,映画産業が一斉に子供世界に退行したりすると面白いぞ。自称大人の古手ファンは嘆くだろうが,すでにその兆しは現れている。

そのとき,男の子監督の天敵「女の子監督」が登場するかどうかはわからないが,そうなればなったでまた面白い。たぶん。