野球映画に栄えあれ

常に新作待機中

先日,メジャーリーグの中継を見ていたらイニングの合間に盛大なブーイングが起きた。何だろうと思ったら,実はその日の試合は野球映画の撮影に使われていたのだ。お客さん全員がエキストラというわけで,指示に合わせて一斉に「Boooooo!」とやっていたのである。ああ,楽しそうじゃな〜。

そういえばハリウッドでは野球映画ってコンスタントに作られてるよね。特に映画ファンというわけではなくとも思いつくタイトルはいろいろあるはずだ。

スポーツとしてはバスケットやアメリカンフットボールに押され気味とも言われるけど,やっぱりアメリカの国技として彼の国の生活,文化,そして人生への浸透度というのは野球がいちばんのような気がする。くりかえし映画になるのは野球というスポーツがそうした普遍的なモチーフにまでなっているからだろうか。

メジャーリーグだけではない。マイナーリーグやリトルリーグや女子野球まで,クラスやカテゴリーの違いはあっても野球にはいろんなドラマがある……ってことなんだろうな。

サッカーのような世界スポーツではないけど,北・中アメリカと極東の一部という現在の「野球圏」に育った人間にとってはその存在は決して小さくない。野球映画のドラマや雰囲気は,我々にとってごく自然に受け止めることのできる文化そのものでもあるからだ。

as himself

たまたまテレビでやってた「リトル・ビッグ・フィールド」という映画を見ていたらクライマックスに本物のケン・グリフィー・ジュニアやランディ・ジョンソンが登場してきて「おお,ホンモノだ」とうれしい驚き。彼らがマリナーズにいた頃の作品で,なぜかツインズのオーナー兼監督に就任した(してしまった?)少年が主人公の野球映画である。

イチロー大活躍以降の新しいファンにとっても画面の中のピネラ監督の顔を見逃すことはあるまい。今(2002年5月)よりちょっと若いけどね。それはともかく,やはり架空のキャラクターだけじゃなく実在のご当人が登場するとにわかにリアリティが増す。特に毎日のようにマリナーズの試合が中継される今ではなおさらだ。エンド・クレジットを見ているとグリフィーやランディの表示は

Ken Griffey Jr. as himself
Randy Johnson as himself

となっていた。なるほど〜本人が自分自身を演じるときはhimselfとかherselfと表示するのか,ひとつ賢くなったなあ。ちなみにピネラ監督のクレジットはなかったような気がする。やっぱりスター選手とは扱いが違うのかな?いつか再見することがあったら確認してみよう。

エンディングといえば「プリティ・リーグ」のラストからエンドロールの部分で,マドンナの歌うエンディング曲を聞いてちょっとじーんときたことを覚えている。曲もいいんだけど,あそこはクレジットの出し方がまたよいんだ。野球映画なら確かにああこなくちゃ。

こんなのもあったなあ

野球圏に属してなおかつ映画も一応盛んな我が国の事情はどうかというと,野球映画,それなりに作られてるんだね。残念ながらあまり勤勉な観客とは言えない僕でも「ああ,確かに」と思い出せるタイトルがいくつかある。してみると,野球映画を作りたいという人は邦画のキビシイ製作状況の中でも死に絶えてはいないようだ。

そういえば,もうずいぶん前だけど,水島新司の「野球狂の詩」(77年)が実写で映画化された。水原勇気役の木之内みどりは僕のまわりの男どもにもやけにファンが多かったことで印象に残っている。サウスポーのアンダースロー,意外とうまいと言われたものだが,僕にはもう全然記憶がない。

でもあのときはキネマ旬報で特集まで組まれた映画だったのだ。今見たらどうなんだろう。やはり怪作に見えるのかなあ。

ちなみに,そのキネ旬の特集号では水島氏の描く原作の水原勇気の絵が表紙だったので,一瞬アニメ雑誌かと思ったものである。今ならどうということはないが,当時のあの雑誌にしてはなかなか勇気のいるデザインだったと思う。シャレではないぞ。

野球映画は試合のシーンがしょぼいとしらけてしまうが,最近は日本人もずいぶんノリがよくなったから,少なくとも観客席のシーンは大迫力で撮れると思う。今年の「ミスター・ルーキー」なんてヒットしているから今後も野望?を捨てずにがんばってほしいものである。

日本の夜明けは近いのか

映画で見るメジャーリーグの「さすがだなあ」と思うところは,やられ役の敵方チームもちゃんと実名で協力してくれる懐の深さだ。こういう「遊びは遊び」として受け止めてくれる度量がうらやましい。邦画じゃなかなかそうはいかないことが多いのだ。

たとえば自衛隊はよく怪獣映画に協力してくれるが,航空自衛隊は戦闘機が墜落するシーンがあると協力NOだというし,怪獣に破壊されるビルにしても「ウチは困る」と許可してくれないデパートや電器店があったりする。

野球映画だって実在のチームが登場してくれればぐんとリアリティが出てノリもよくなると思うのだが,主人公が実在の球団の選手として登場しても戦う相手チームが架空のチーム名ではどうしても不満が残る。邦画ではその虚実の混じり具合がいまひとつなのだ。もちろんどのチームのことを言っているかはおわかりだと思う。

巨人が負ける映画が誕生したとき,日本の野球映画は初めて真の夜明けを迎えるのである。

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「メジャーリーグ」「ナチュラル」「フィールド・オブ・ドリームズ」……野球映画の数々にはそれぞれ忘れがたい名場面がある。子供のころ野球をやらなかった僕にも野球映画の魅力はちゃんと伝わってくるのだ。野球文化圏に育った映画ファンのひとりとして,このジャンルの未来に栄えあれ,と願っている。