予告編日記

予告編というのはサプルメントの基本みたいなものである。専門にコレクションしている方もいるし,BSなどでも予告編特集みたいな番組がたまにある。予告編だけを集めたビデオさえ出ているくらいだ。何よりも本編とは密接不可分でありながら独自の世界を持っているところが予告編の大きな魅力である。集めはじめるとキリがないが,コレクションとしてはなかなか楽しい世界だ。

特にDVD時代になっておまけについてくることが多くなったので,とっかえひっかえ見ているといろいろ面白いものにぶつかる。最近見た中からいくつかあげてみよう。

某月某日「禁断の惑星」の予告編を見る。

本編はとても好きな作品だけど予告編は初めて見た。ありがたやDVD。それにしても,おお〜この流れゆく文字は「スターウォーズ」のオープニングみたいだ。あのイントロの文字が整然と流れていく部分ね。あれはもっとも「スターウォーズ」らしい定番シーンのひとつだけど,それ以前の作品では初めて見たなあ。もしやこれがルーツってことは……?

しかしこの手法,本編のオープニングには採用されていないのであった。使っていれば「ウチらが本家よ」と主張できたかもしれない。

某月某日「気狂いピエロ」の予告編を見る。

言わずとしれたゴダール監督の超有名作だが,予告編がまたむちゃくちゃかっこいい。予告編だけで完全に1本の作品になっている。映画ってのは大人のもんだぜと思い知らせてくれるすんばらしい出来。

僕は映画ファンとしてヌーベル・バーグ時代をリアルタイムで経験したわけではないけど,当時の人たちが惚れ込んだのもむべなるかなと納得できる。そんな予告編であった。余談だがATOKには「気狂い」という言葉が登録されていなかった。この小心者め。

某月某日「サスペリア」の予告編を見る。

本国版とアメリカ版の予告編を見る。アメリカ版のチープな出来に大笑い。けたたましいのはいかにもアメリカ版って感じだが,シーンの切れ目ごとに粘土細工みたいなロゴがひくひくと動いて「さすぴーりあー」と合の手(あいのて)が入る。

ひえーちゃっちいーと脱力しつつもう1度よく見ると,下手な粘土細工みたいなロゴは人の内臓を模しているらしい。なるほど血走っているな。だからといって印象が変わるわけではなく,本国版の緊迫感ある予告編の方が数段上だ。発音はサスペリアよりサスピリアの方が正しいようだが,今となっては邦題が「サスピリア」でなくてよかったと思う。

某月某日「四月物語」の予告編を見る。

邦画唯一のdts仕様DVD(当時)なんてことはともかく,オリジナルビデオ予告編と題されたバージョンがとてもよい。「ラブレター」で岩井監督のファンになった方には特に心地よいタッチであろう。某松たか子のビデオクリップに収録されていたものとは画面サイズ等微妙に違うようである。

ところでこの予告編で面白いのは最後にテロップで「公開劇場募集中!」と出てくること。配給が決まってないのに制作していたのかしらん?このひと言が妙に心に残る。

某月某日「スペース・トラッカー」の予告編を見る。

デニス・ホッパー主演宇宙のトラック野郎の映画だ。冗談ではない。主演が主演だから人をくった話ではあるが,掘り出し物度は大であった。で,この予告編,えらくシリアスに人類の危機みたいな感じでスタートしながら後半微妙に腰くだけになるさまがおかしい。流行のおバカ映画とはちょっと違うが,本編を見た後この予告編を見ると微妙なギャップにニヤニヤ。

本編の方は適当にちりばめられたチープさがなかなか楽しかったが,けっこうプロフェッショナルな仕事をしている点は好感度大である。

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予告編には本編の出来やスケール(予算とか大スターの有無とかね)の違いなどはとりあえず横に置いといて話題にできる楽しさがある。別にコレクターなどにならなくてもお気に入りの映画と一緒に手元にあるとうれしい副産物だ。

予告編はすごく期待させるのに本編はいまいちだったよ〜という例は数え切れないほどあるけど,それはまあ予告編制作者の腕にしてやられたということであなたの映画史の中にこう記しておこう。次はだまされんぞ〜。