大容量を誇るDVDのおかげで最近はサプルメント満載のタイトルが増えてきた。昔は高価なLDボックスとかテレビの特番でお目にかかる程度だったメイキング類も,今では特に珍しくもない。映画本編だけでなくその周辺も楽しみたい人にはうれしい限りだ。
しかし,サプルメントが付いてて当たり前,という今の状況だとそのオマケについても出来の良し悪しが気になってくる。撮影風景をおざなりにつないでちょこっと関係者のコメントを入れただけ,程度のものでは物足りない。オマケだって気合いの入り方が伝わってくるようなものを見せてほしいのだ。
そういう意味では名のある傑作・名作の場合は有利である。
いろんな素材がその名声ゆえに残されているし,折に触れ,特集が組まれたり新たなインタビューやドキュメンタリーが作られたりするからだ。数ある映画の中でも誰もが知ってるようなタイトルにはそういった強みがある。それがまたその作品の寿命を更に延ばすことにもなっているのだろう。単なる宣伝素材にとどまらない充実ぶりを見せてくれるとこちらもうれしい。
定番中の定番「オズの魔法使」はもう60年以上前の作品だが,いまだに人気は衰えずいろんな形でリリースされている。最近出た(今は2000年7月)DVD版は特典映像&特典音声満載でおまけにリーズナブルな価格,すべてのDVDがこんなだったらいいのに,と思わせる1枚だ。
映画本編の方は今さらコメントの必要もないだろうが,サプルメントの方は面白い裏話や珍しい素材がいろいろ出てきて実に興味深い。一見(一聴)以上の価値があるのでぜひ体験していただきたい。
内容は盛りだくさんだが,一部インタビューなどを除いて以前リリースされた「THE ULTIMATE OZ」というボックス仕様のLDとほぼ同じだ。僕はLD版でサプルメント類も見ていたのだが,今回は特典音声の部分を延々と(何時間もあるのだ)聴いてみてやはり充実しているなあと感心してしまった。
レコーディングやそのリハーサルの様子が聴けるのは珍しいし,よくぞここまで残していたなあとうれしくなる。だって名曲「虹の彼方に」のレコーディング中にいきなりジュディ・ガーランドがケホケホとせき込んで中断するんだよ。こんなのめったに聴けないぞ。
解説によると録音は38年の秋から行われたそうである。ここでは収録ごとに「テイク2」とか「テイク3」という風に音楽監督の声が聞こえ,録音を繰り返していく様子がよくわかる。「虹の彼方に」はテイク5と6をつないだものだそうだが,それを知ってつなぎ目がわかるかというともちろんそんなことはない。でも実は耳をすませてしまったことを白状しておこう。
同じ内容でも,大容量のDVDと比べるとLD版は少ない音声トラックをやりくりしてぎゅうぎゅう詰めにしている感じだが,その代わりに解説書の充実はDVDの比ではない。これはけっこう大きなポイントだ。
上記のレコーディングセッションなどDVDのメニューではおおざっぱなチャプターが並ぶだけだが,LD版では細かいシーンナンバーとその内容がジャケットに記載され,チャプターもそれらひとつずつにふられている。小さなことまで知りたいこだわり派にはうれしい仕様だ。
LDの大判ジャケットや詳細な解説書の存在価値はまだまだ捨てたものではない。活字派にとって,画面上でスキップしながらテキストを読むのはかったるい作業なのだ。印刷物にぎっしりと並んだ活字にえもいわれぬ充実感を感じる人種にとってはLD版はおすすめである。詳細な翻訳がうれしいし,資料的価値も非常に高い。
たとえば各楽曲につけられたシーンナンバー2000番台と2100番台は歌の入った楽曲で,あの「虹の彼方に」はシーン2019である……なんてことをさらっと口にして知ったかぶりができるわけだ。しないけど。
残念ながらLDにはもう未来はないが,プレーヤーを持っている人にはこのLDボックス版オズは中古屋を探す価値はある。
DVDにしろLDにしろ,サプルメントの中心は「オズの素晴らしき世界」と題されたメイキングや予告編集だと思うが,見ているとやはりいろいろな感慨がわいてくる。60年の歳月を感じさせるもの,そうでないもの,感じることは人それぞれだろうが,一度でもこの映画を見た人なら必見だ。
ちょっと面白かったのが各国語版から感じるニュアンスの違いだ。イタリア語版の巻き舌がどうも軽くてヘンだね〜とか,フランス語版はいまいち印象薄いなとか,やはり吹き替えの出来はポイント大きいのである。特にドイツ語版で魔女がまくしたてる部分は本国版以上に雰囲気が出ていて笑ってしまった。堅くて歯切れがよくてかつ圧迫感もあるドイツ語の響きがぴったりなのである。もうちょっと長く見てみたかったなあ。
予告編はいろいろなバージョンが収録されているが,なんと言っても珍品は49年のリバイバル時のものだ。わざわざ「大人向け」と題されたこの予告編,とても僕の拙い文章では表現できない。みなさんの知るオズのイメージとはかけ離れたアメリカンな広告アートのイラストには脱力する人,腰が引ける人続出だろう。
大人になって夢を忘れたカップルもこの映画でかつての生き生きした心を取り戻し,夢と希望がよみがえる,といった戦略の作りなんだろうな,たぶん。
以前「白雪姫」のポスターデザインの時代ごとの移り変わりを見たことがあるが,それらは少しずつスムーズにモダンになっていって違和感はなかった。しかしこの大人向け予告編のイメージの違和感というか落差はすごいぞ。ぜひご自分の目で確認して笑ってほしい。
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メイキング終盤にどこかのステージで歌うジュディ・ガーランドの映像が出てくる。曲はおなじみ「虹の彼方に」だ。正直,映画本編では美少女とは思えなかった彼女だが,ここではまことに美しく,スターらしいきらめきに包まれている。ああ,この子はこんなにもきれいで輝いている人だったんだなあと感動してしまった。
これはそんなひとコマもうれしいサプルメントなのである。