白雪姫−サプルメントを見て その1

予告編の歴史に触れてみる

白雪姫の初公開は1937年だからすでに60年以上前の作品である。その間幾度かのリバイバルを経て今に至っているわけだが,このセットには公開のたびに制作される予告編の中から選んだ様々なバージョンが収録されている。予告編に見るこの作品のポジションの変遷がなかなか面白い。

初めはディズニー初の長編作品のすばらしさを華々しくアピールする作りなのだが,後代になるにつれ,名作としての地位が確固としたものになっていく様子が伝わってくる。あの歴史的名作が再びやってきます……という感じの予告編になるわけだ。創始者ウォルト・ディズニー亡きあともこの作品がディズニーにとって特別な地位を占めていることがよくわかる。

この予告編集のパートを通して見ると,最初に作られた予告編がもっとも印象深い。冒頭マスコミでの好評を伝える手法は昔ながらのものだが,まだ本編のフィルムは使われておらず,動く白雪姫や小人たちを見ることはできない。そのかわりウォルト・ディズニーその人(若い〜)が7人の小人のキャラクターを1人ずつ説明してくれるのである。テレビシリーズの「ディズニーランド」をちょっと思い出させる雰囲気がなかなかよい。

それから「あ,時代が変わったな」と感じさせるのは誕生50周年記念の公開時の予告編。見覚えのある現代のディズニーのロゴとCG風のきらびやかな文字が今を感じさせてくれる。この作品はまさにクラシックだが,歴史を重ねて現代に到達したという感じのする予告編である。本編フィルムの抜粋の仕方もかなり現代的な演出になっている。

パブリシティに時代を見る

これほどの作品になると映画公開にともなう商売としての側面,いわゆるパブリシティやマーチャンダイジングの部分も膨大である。このLDにはこういった関連商品や映画興業に関する様々な小物類に関しても「ほほお〜」という面白い資料や貴重な画像がいろいろ収められている。

たとえばキャラクター商品や提携商品の広告などが多数収録されているのだが,これが文字どおり玉石混淆で楽しいのである。使用されている白雪姫や小人たちのキャラクターひとつとっても映画に忠実なよくできたものからまるで海賊版や低レベルの偽ブランド商品みたいな稚拙なものまで多彩である。こういうのを多彩と言っていいのかはちょっと疑問だが,当時のパブリシティ活動の雰囲気が伝わってくる。

しかし子供向けの人形やお面などは別になんてこともないのだが,白雪姫がハムの広告に出ていたりするのはちょっと悲しいな。イラストがいまいち稚拙なだけになおさらだ。某社のセーラームーンソーセージを思い出してしまった。

中にはええっと思うような商品まである。何気なしにこのセクションをコマ送りで見ているといきなりグラマーな下着モデルの写真が出てくるのだ。キャプションを見てみるとやはりこれも関連商品らしいのである。面白いなあ。

また映画館側に向けた興業上のアドバイスを記した文書などもある。いわく,

劇場には魔法の鏡をデザインした鏡を飾りましょう,そしてキャプションはこれこれこういう風に書きましょう,これで白雪姫が上映される劇場であることがお客さんに知れ渡ることでしょう……

といった具合。映画は最終的には大勢のお客さんに来てもらわねば成功とは言えない。ありとあらゆる手を尽くして商売に徹するのもまた興業にとっては健全な姿なのだ。

ヒロイン像のニーズをかいま見る

なにしろ初公開から60年である。その間アニメーションもディズニープロ自身もずいぶん変わったが,当然のことながらキャラクターデザインの変化も大きい。白雪姫は今見ると丸顔で幼い感じがして,世界一の美女というには成熟度が足りないように見える。後のシンデレラ姫やオーロラ姫のシャープなお姉さん顔の方が美女という言葉にはふさわしいかもしれない。

これが現代の「美女と野獣」や「アラジン」などになると美女というよりは個性的な顔立ちといった感が強く,このあたりは生身の女優さんに古典的な美貌の持ち主が少なくなっている最近のハリウッドに通ずるものがある。

面白いのは白雪姫のポスターやロビーカードのたぐいにも時代と共にそういった変化が微妙に反映されていることだ。

やはり60年前のキャラクターのままでは売りにくいと感じているのか,現代に近づくと姫のイラストには急速に今風のデザインラインが混じってくる。にも関わらず,親しみがもてるのはやはり昔のバージョンの方であって,これはオリジナルのキャラクターがスタンダード・イメージとして相当強固に植え付けられているということであろう。

健闘する日本のセンス

関連商品の資料をひとコマずつ見ていると世界各国で出版された「白雪姫」の絵本−ディズニーの映画を元にしたもの−を紹介する(表紙だけだが)パートがある。どの絵本も基本デザインはこの映画のそれだが,お国柄や文化の違いで姫のコスチュームや雰囲気はかなり違う。ブラジルのそれなどは明らかにラテンの血が感じられて面白い。

そんな中で日本版の絵本も紹介されるのだが,これはなかなか趣味がよく,他国のものに比べてもデザイン面でよく健闘していると思った。47年という戦後間もないころの出版物である。時代を考えればこのスタッフのセンスはたいしたものだと思う。

ひそかな誇らしさを感じてうれしくなってしまった。

(その2へ続く)