白雪姫−サプルメントを見て その2

メイキングの密度を堪能する

このセットのサプルメントセクションの中でもっとも充実したプログラムといえるのが「名作ができるまで」と題されたメイキング・オブ・白雪姫の部分である。舞台裏を解き明かしながらも種明かしに終わることなく,むしろ若々しいスタッフたちがどのように情熱を燃やしてこの映画を作っていったのかを昔のテレビ版「ディズニーランド」みたいな感じで見せてくれる。ここは楽しい。しかも歴史的にも貴重な映像や面白いシーンが続出するので,これを見た人はずいぶん得した気分になれるだろう。

たとえば,効果音の作成過程である。そんなに長いシークェンスではないが,初めて見る珍しい映像がいくつもあった。様々な音を作るシーンがあるのだが,それがなんというか手作りの暖かみだけではなく,実に楽しそうに仕事している雰囲気が伝わってくるのである。

ええっ?と驚くような奇想天外な,しかも大がかりな仕掛けで作っている音もあるのだが,作業中の短い映像からも彼らの"幸福な時代"が感じとれる。スタッフにとってはもっとも充実した時代であろうか。その熱気がちょっとうらやましい。自分もあの中で仕事したかったな,と本気で思ってしまうくらいだ。

また,ウォルト・ディズニーは各キャラクターの芝居を自ら巧みに演じてみせ,スタッフたちに自分の演出を浸透させていたことがよくわかる。それぞれの登場人物がどのように反応し,どのようにセリフを口にするか,まるで人間の俳優に演技指導をする監督のようである。彼がスタッフの前で演ずる「魔女が毒リンゴを手にすごんでみせる」芝居がそのまま本編の映像につながっても全然違和感がない,というシーンが紹介されるのだが,きっとこの調子で彼自身の演技プラン?により全編が統一されているのだろう。

やはりプレミア風景だね

こういったサプルメント類に付き物なのがプレミア上映の模様を伝えるニュースなどの映像である。もちろん「白雪姫」ほどの歴史的名作となればちゃんとそのときの様子が残されている。あのマレーネ・ディートリヒまでが登場するプレミア風景は華やかで,30代半ばのウォルト・ディズニーは颯爽とした好男子である。そのまま二枚目スターで通用するほどだ。

その彼がミッキーやドナルドを引き連れて登場する。ミッキーやミニーの着ぐるみは現在のものに比べるとまだ鼻先がとがっていていかにもネズミという感じだ。今のミッキーを見慣れている人には違和感バリバリだろう。なにしろ1937年,昭和12年のことである。彼らのデザイン的成熟にはまだしばらくの時間が必要な,そんな時代のことである。

そしてもうひとつ,アカデミー賞の授賞式風景があるのだが,ここでは伝説的なシーンを目撃することができる。この作品でウォルトは何度目かのオスカーを獲得するのだが,このときのプレゼンターは伝説の名子役シャーリー・テンプル。ガキもといお子さまとは思えない貫禄と受け答えはさすがであるが,注目は特製のオスカー像である。

あのおなじみのオスカー像,このときは白雪姫と7人の小人にちなんで本体の横にちいさな7つのオスカー像がくっついた特別製だったのである。今まで写真などでは見たことがあったが,テンプルちゃんが除幕式よろしくオスカー像にかけられていた布を取り去る決定的瞬間を動く映像で見たのは初めてである。サプルメントマニア至福の一瞬であった。

幻のシーンに思いをはせる

白雪姫は製作決定から完成までに数年を要しているだけにストーリー上の変遷はかなりあったようで,未使用に終わったシークェンスもかなりある。そういった未使用部分のストーリーボードやスケッチ,テストカットなどの素材をつないで,あり得たかもしれない幻のシーンを再現したフィルムも収録されている。

大半は本編の流れにマッチしないとか冗長であるといった理由で没になっているのだが,中には実現していればなあ,と思わせる惜しい場面もある。白雪姫と王子がデートする空想のシーンなどは夜の雲間を舞台にしており,もし没にならなければ美しく幻想的な絵になっていたと思う。

音楽やカメラワークに至るまでかなり詳細な打ち合わせがなされたことは収録された多数のスケッチ類からも明らかであり,ここを切るのはウォルトにとっても相当な決断だったのではないかと思う。潔く切ってしまえるのもまた一流の証であろう。

また7人の小人のキャラクターも他の数十人の小人たち候補の中から選ばれてこの映画に出演したのだということを初めて知った。いってみれば彼らもまた"オーディション"にパスしてこの映画に出ているようなものだ。

サプルメント・セクションにはとにかく現存するものはすべてかき集めたのではないかと思われるほどたくさんの資料が収録されているので,落選組の小人たちの姿を見ることも可能である。とにかくこんなにコマ送りを使ったのは久しぶりだ。

幻といえば,アニメーターたちの研究用に撮影されたライブアクション部分の映像も収録されている。白雪姫が踊る部分などは実に自然でなめらかな動きであるが,このライブアクションの映像を見るとモデルに忠実に再現されていることがよくわかる。ついでにいえば,白雪姫の動きのモデルになった女性は同時に小人たちの何人かのモデルにもなっている。裏方では白雪姫と小人が同一人物だったというわけだ。

修復スタッフに敬意を

60年も前の作品であるだけにフィルムの劣化は重大な問題であるが,サプルメント・セクションの最後に収められたフィルム修復作業の部分には1人の映画ファンとして敬意を表したくなる。修復すなわちデジタル変換でもあるのだが,このメイキングで見ると気の遠くなる作業である。

僕などもその成果をこうして享受しているわけで,名作を未来へ残すべく努力するスタッフには感謝したい。そんな気分まで生まれる白雪姫のメイキング類は,サプルメントマニアのみならず,ディズニーファンにも映画ファンにも一度は見る機会があればなあ,と思わせる高純度映像ライブラリであった。