メイキングにアイドル映像の本道を見た

遠い昔の話です

レーザーディスクは最近でこそDVDに押され気味だけど,絵の出るレコードという未来的商品を成立させた偉大な発明である。こいつのおかげでずいぶん楽しませてもらっている。いい時代に生まれたなあと本気で思う。

で,すでに遠い昔の出来事になっているが,そのスタート時にはビデオディスク戦争なる激しいフォーマット競争があった。ビデオのVHS対ベータみたいにLD対VHDという戦いがあったのだ。結果は周知のとおり。今ではVHDの名を知るのは古くからのマニアだけかもしれない。

VHDはジャケットデザインが秀逸で,映画各作品の雰囲気がとてもよく出ていた。僕はLD派だったが,ことジャケットに関してはライバル陣営がうらやましかったものである。LDはレーザーとか非接触式といったハイスペックと未来感をうまく商品イメージにつなげることで成功し,VHDはやがて消えていった。日本の消費者はコンシューマー製品に異常なまでのオーバースペックを求める習性があるのだ。

そのフォーマット競争のシンボルとも言えるアイドルがいた。小泉今日子である。

ああ幻のタイムレスワールド

小泉今日子のごく初期のビデオ作品「Timeless World」は,当時としては相当に力の入ったアイドルビデオだ。後の大がかりなビデオクリップ時代の先触れみたいな作りがなかなか豪勢であった。彼女の人気もさることながら(ジャケットの写真は今のどのアイドルより可愛いぞ)1本のパッケージソフトとして非常に商品価値の高い作品だったのである。

しかもLDでは見られないという特殊事情があった。

彼女の曲を出していたビクターはVHDの盟主でもあったからだ。これはVHDだけの強力タイトルとしてライバルに渡すわけがない。あの頃,これと次作の「ファンタァジェン」の2本の小泉作品がリリース不可能という事実を嘆いたLDユーザーは少なくあるまい。

すでにディスク時代に突入していた者にとって,ビデオテープでのコレクションなぞ考慮の外だったのだ。

メイキングこそアイドルの世界

おかげで,後にひっそりとLDでリリースされたこの作品を見たとき,いくばくかの感慨があったことは事実である。そうかーこういう代物だったのか〜。

この作品,彼女が時を超えていろんな世界を訪れるというコンセプトのビデオクリップ集なんだけど,意外と言うべきかなるほどと言うべきか,本編が終わってからが本番なのである。いわゆるメイキング部分ね。

アイドルものビデオでは珍しくもないけど巻末にはメイキング映像が収録されている。実際には巻末どころかけっこうな分量がある。小泉今日子自身が撮影風景をいろいろ解説してくれるわけだが,何しろ84年だ。このときの彼女,とんでもなく可愛いので今見ると驚いてしまう。ジャケット写真などほとんど別人だ。こんな可愛い娘いたっけ?という感じ。

メイキング中の笑顔はそれはもう一撃必殺というチャーミングなものだが,作り自体はありふれた代物だ。ここにいたって卒然と悟るのだが,このメイキング風景のむちゃくちゃ可愛い姿こそアイドルビデオの真の存在理由なのだな。メイキングのふりして実はこの部分こそが本編だったのだ。

メイキングのバックに小さく流れている彼女の曲にちゃんと(本編でもないのに)チャプターがふってあるもんな。

アイドルビデオあなどりがたし

今見ると撮影風景は音楽番組のセットみたいでけっこうプリミティブな作りである。15年前だからな。たぶんCGのあるなしというのが今との最も大きな違いだろう。しかし,アイドルのチャーミングな笑顔ってのは映像技術とは別物だ。この作品の真価は古びていない。

彼女がアイスクリームをなめてるシーンなどはかわいらしさの最終兵器である。これを見てしまうと世の男たちは(想像上の)尻尾をバタバタとふってしまうこと確実だ。嗚呼,こんなに可愛くていいのか〜。

ついでにメイク中の大きなあくびがまた言語道断なまでの愛らしさである。LDではサイド1チャプター8の36分48秒くらい……ってコーナーが違うか。

久々に引っぱり出して見ていたのだが,なんだか口元がにへら〜っとゆるんでいるような気がする。とても人には見せられないだらしない顔しているだろうなあ。しかしアイドルビデオの本質はメイキングにこそあったのだ。今にして知る真実。

あのころハマっていたらさぞシアワセだったろう。