埋もれゆく遺産

マイナスα

わずか数年でDVDが爆発的に普及し,LDはほとんど唐突と言っていいくらいあっけなく退場した。今はそのこと自体には特に感慨はない。新しいメディアがうまく受け入れられればそういうことも当然起こる。メディアの交代はAVマニアやソフトのコレクターにとっては宿命でもあるからだ。

それにDVDはLD時代のタイトルもかなりの勢いでカバーしてくれたし,お値段もLDよりリーズナブルだ。旧作洋画ファンなどはまことにありがたい時代と感じているかもしれない。1万円で5本以上買えるのだから。

かつてはひとつ買うだけでもたいへんな物量を感じさせてくれたLDボックスにしても,次々にDVDに置き換わってだいぶ軽くコンパクトなものに生まれ変わった。どうかするとLD数枚を要したボックスが特典映像込みで1枚のDVDに収まったりするのだから,まあたいしたもんだ。

初期のLDボックスなどボリュームの割に特典映像などたいして付いてないものが多くて,高い出費の割には本編だけという仕様もけっこうあった。それでも好きなTVシリーズをボックスでどんと買うのはなかなか快感だったけどね。

そして今,かつてのLDボックスはほぼそのままの内容(時にはプラスα)でDVDになっている。大容量のメディアはやはりありがたい。

ところが,LDからDVDに移行する際にかつての豊富な特典映像の数々がごっそりこぼれ落ちてしまったタイトルもある。"マイナスα"というのは珍しいケースだと思うが,それが自分の大好きな作品となるとちーとばかし複雑だ。もったいないし,LD時代に手控えていたファンにとってはこの先DVDで見られない幻の映像になってしまう。ちょっと気の毒ではないか。

オタク向けなればこそ

前世紀末の邦画界で最もエポックメイキングな作品のひとつは平成ガメラ3部作だと僕は思っている。(以下3作品をG1,G2,G3と称する)

物語も映像もキャラクターも,エンタテインメント作品として全力を尽くした実に意義あるシリーズだ。3作も作られたこと,しかも水準を上げながらというのが天晴れではないか。リリースされた各作品のLDボックスはもちろん買った。どれも非常に"濃い"作りで「買ってよかった〜」と心から思ったものである。

ところが,このボックスの特典映像がDVDにはほとんど引き継がれていないのである。

DVDボックスには特撮メイキングを含めた樋口特技監督のインタビューと予告編や特報を集めた2枚の特典ディスクが付いてくるが,LDボックス版を見た者にとっては全然物足りない。長けりゃいいってもんではないが,やはり薄い感じは免れない。濃さという意味での"たっぷり感"が足りないのである。

メイキングの充実ぶりからしてLDボックス版はファン必携だ。特にG3のそれは手の込んだ力作で,本編と併せて映画を2倍楽しめるという出色の出来映えである。これを見てないファンにはお気の毒というほかない。今のところ,LDボックスに財布をはたいた人たちだけのアドバンテージだろう。

もちろん,価格の差を考えればLDボックス版の方が充実しているのは納得できるのだが,DVD化されなかったサプルメントの数々は,このまま幻にしてしまうにはあまりに惜しい代物である。怪獣映画とくればおのずと客層も限定されてしまうかもしれないが,なればこそ要求も熱い。現在のメディアで残してほしいのである。

地域限定の遺産

G1,G2のメイキングには「ドォーモ」というチャプターがある。これはKBC九州朝日放送の深夜番組「ドォーモ」による独自取材のメイキングを編集したものだ。特撮好き名物ディレクターのおかげで数々の特撮映画の独自メイキングを放送してくれたありがた〜い番組である。実は僕もオンエア圏内に住んでいるのでしっかりその恩恵にあずかっているのだ。

レポーターは特撮には何の情熱もなさそうな村仲ともみという地元では有名なお姉さん。どっちかというとグルメ系の彼女なので,金子監督や樋口監督に対してもとんちんかんな発言,失言多数というミスマッチなところが恒例になっている。特に取材の度に監督たちの前で怪獣の名前をライバル作品のゴジラやモスラと言い間違えて白い目で見られたりするのがお約束だ。バカだなーと言いながら,でも憎めないキャラなので苦笑しつつ許してしまうのだが。

でもメイキング番組自体はとてもマニアックなところまで取材してて面白い。残念なのはG3のメイキング特集がLDボックスに収録されなかったことだ。このG3の特番もたいへん面白かったんだけどなあ。

特に,数々の失言と失敗を胸に秘め,村仲嬢が福岡でのキャンペーンに訪れた金子,樋口両監督にインタビューするくだりが大笑い。インタビューどころか逆に面接を受けているような緊張ぶり,対する樋口監督の"武器による攻撃"とそれを見た前田愛,中山忍のリアクションなど,全国のガメラファンがコレを見られないのは実にもってお気の毒というお宝映像である。なんでこれをG3のLDボックスに入れてくれなかったのかなあ。

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まあ,そんなわけで平成ガメラ3部作のLDボックスはその特典映像部分だけでもなんとかDVDで復活してほしい充実ぶりなのだ。

もちろん映画は本編が主役なんだからそちらがDVD化されていればケチをつける筋合いではないのだが……やっぱりこれらのサプルメントがLD時代の幻の遺産になってしまうのは惜しい。惜しすぎるよ。いつか復活企画が立ち上がることを願いたいものだ。