たまには邪道もいいかもね

予告編集という存在は

僕はこんなサイトを開いているしその中にこうしてサプルメントを扱ったコーナーも作っているくらいだから,当然様々な特典映像も見てきた。まあDVD時代になってからはサプルメント類が溢れかえってとてもすべてはカバーしきれないけど,それでもずいぶんいろいろ楽しませてもらったと思っている。

中でも予告編というのはサプルメントやおまけの基本であり,その手の映像コレクションの出発点でもある。集めるのは楽しかったなあ。今では以前ほど熱心ではないけれど,それでもDVDのおまけに何パターンもの予告編がついてくるとうれしくてにやにやしながら見ている。

予告編というのはそのくらいメイキングと並んでサプルメントの王道だってことだ。

当然,そういうコレクターやファンのために「じゃあ予告編ばっかり集めたソフトも作りましょう」という企画が持ち上がる。うちにもいくつかその手のものがある。だけど,ここでハタと考えるわけだ。この予告編集というソフトはなんか本末転倒っぽいんじゃないか?本編のおまけ,特典映像としての位置づけがあってこその予告編ではないのかという気がするのだ。コレクションの中から自分で編集して作るのならまだしもね。

特にこのサプルメント・マニアのコーナーで取り上げるのは微妙にずれてる気もするんだけど,久しぶりに引っ張り出して見たやつが面白かったので取り上げることにした。ちょっと邪道だけどたまにはいいか。

いろんな時代があったのね

もういつ買ったのかもよく覚えていないのだが,暇つぶしに取り出した「大映特撮予告編全集」が思いがけず面白くてさっきまでひとり大ウケで見ていたところだ。

買った時にもそれなりに面白がって見たはずなんだけど,すっかり中身を忘れていたよ。もうけたというべきか記憶力の減退を嘆くべきなのかはわからない。ただ,邦画の保守本流を少し離れたこういう流れもあったんだなあ,そういう時代もあったのねという感慨を強く抱くんだね,うん。

タイトルからもわかるとおり,これはクラシックな時代の大映映画の中で特に特撮映画の色合いの強い作品の予告編を集めたものである。寄せ集めのごった煮の感は否めないけどそこがまたB級っぽいというかね,いい味出してるんだ。続けて見ていると今どきの映画とは別世界の香りが漂っていることをひしひしと感じるだろう。

だいたい「日蓮と蒙古大襲来」とか「釈迦」とかさ,今こんなのマジで作る人なんていないし,いたとしても宗教団体の息がかかってとても食指は動かないだろう。でも日本映画界の大スターが真剣に演技しているさまはある意味感動的でさえある。長谷川一夫とか勝新太郎とか後の大御所たちにも(いや当時でさえ大御所だったのかな)こんな熱い映画人生の一幕があったんだねえ。

僕は市川雷蔵なんて眠狂四郎と現代劇のクールな殺し屋シリーズくらいしかイメージがないから特撮スペクタクル大作の雷蔵なんて「げっ,ホント?」という衝撃だ。本編も見てみたいなあ……少しだけ。

ソフト自体が寄せ集め感が強いから当然だけど,見ていると大物スター映画とB級無名役者映画の差がはっきりしていて,各映画人は企画や製作においてもそれぞれの住む世界で仕事してたんだろうなと感じる。超大作はオールスター・キャスト,B級特撮は無名か新人,まあ当たり前か。「透明剣士」のあの人も「ちくしょー,おれも今に一流になってやるぜ」とがんばっていたのだろうな。

チープでカルトで珍品で

大映特撮映画にはいくつかの大きな作品ラインがある。ひとつはSF怪奇ミステリー,ひとつは歴史スペクタクル,さらには特撮時代劇,そしてガメラや大魔神だ。個人的に興味深いのはやっぱり自分が年齢的にリアルタイムでは見ていない時代の作品だ。

後にLD時代にいくつか集めたものもあるけど,未見のままの珍品も多い。よその会社はどうだか知らないが,大映にはどうやら透明人間ものを好む気配があってこのソフトの中にも「透明天狗」「透明人間現わる」「透明剣士」と3本も収録されている。どの予告編にも透明人間が包帯や頭巾をとって「オレ様は透明なんだぞ」とデモンストレーションするシーンがある。

ご丁寧に全身透明になるまで脱いじゃう。雪の中で全裸になるのはやめた方がいいけどな,などと突っ込みたくなるだろうけど昔はきっとこれで楽しめたのだろうな。いや僕も思いきり突っ込んだけどさ。透明になってもウハハハと高笑いしてちゃ居所バレバレやんか……などと言ってはいかんのだ。

でもそういう見方はやっぱりずるいかもね。古い映画だから今見たら噴飯もののシーンはたくさんあるんだけどそれはこちらも昭和30年代モードに切り替えて楽しむのが吉ってもんだぞ。映画人生真っただ中の人たちの熱意と情熱をこそ買おうではないか。東野英治郎(後の初代黄門さま)なんかほんのひとコマでも「あ,この人一流だ」ってわかる顔してるもんなあ。たいしたもんだ。

支流・分流にも歴史あり

最初にも書いたようにここに収録されている映画はどちらかというと邦画の歴史の中の本流とは言いがたいものが多い。けれど,それでも「おれたちもしっかり生きてたんだぞ」って感じがひしひしと伝わってくる。本編を見たことのない映画もあるけど,予告編をまとめて見ているとメイン・ストリートだけが歴史じゃないんだという気がするんだね。

だから「ガメラ」や「大魔神」のシリーズが出てくると僕としてはなじみがあるけど,いろんな思いを馳せるということではもっと古い初期の特撮作品や特撮を取り入れた一般映画の数々に惹かれる。勝新太郎の「鯨神」や田宮二郎の「風速七十五米」とかね。あ,米と書いてメートルと読むんだよ,念のため。

時代順に見ていくと,今でも現役の人の名前が出て来るとちょっぴりホッとする。時間旅行でやっと自分の時代に近くなってきたって感じかな。どの映画にもちょこちょこクレジットされてるのにとうとうメジャーになれなかった人もいる。ああ,ちょっぴり悲哀。

最後にひとつものすごく個人的なことを。途中で「ガメラ対深海怪獣ジグラ」の予告編を見ていたらアーリン・ゾーナという女の子が出てきて「あっ」と思った。この名前,覚えがある!なんかすごく遠い記憶が揺れてるぞ,と思って検索してみたけどこの映画以外の情報はGoogleでもヒットしなかった。でもこれだけじゃない,もっと別のところでこの名前には思い入れがあったはずだぞ,と記憶の底を探ること数分。

ついに思い出した。この娘はテレビのクイズ番組で石坂浩二のアシスタントをしていたのだ。当時そのエキゾチックな美少女ぶり(だって名前からしてそうでしょ)に毎週チャンネルを合わせていたことを思い出したよ。カタコトの日本語で自己紹介する声まで思い出しちゃった。いやあ,人間の記憶って不思議だ。

……という思わぬ再会もあった「大映特撮予告編全集」はなんだかチープだけどのどかで熱くて懐かしい、遠いいつかの時代が香っているような一枚だった。