コメンタリーをコメントしてみる

1粒で2度美味しい

サプルメントといえば「特典映像」と連想しがちだが,最近は「特典音声」というのも面白くなってきた。特にコメンタリーと称する監督やスタッフの解説を延々と聞けるのがはやりである。小説でいえば作家が自作を解説するようなものだが,あらためて聞いてみるといろいろ裏話が出てきて楽しい。

むろん,すでに本編を見ている人のための企画だ。

メイキングで監督やキャストのインタビューが聞けるものは珍しくないが,こういった作者解説というのは本編の画面を見ながら解説を聞く,というスタイルなので,マニアックな楽しみを求めている人には1粒で2度美味しいオマケであろう。

しかもこの手のコメンタリーはたいてい映画本編の冒頭からラストまでたっぷり収録されているので,メイキングで10分や15分のインタビューを聞くよりずっと内容豊富だ。撮影時の苦労や意外なタネ明かし,ついでにムダ話や脱線もあるのでまことに楽しい。別に音質に凝るようなものでもないのでDVDより容量の少ないLDの時代から時々企画されていたものである。

だいぶ前に出た小津安二郎監督の「東京物語」のLDにも「東京物語座談会」なるコメンタリーが収録されていた。昔のモノラル映画などは音声トラックが余るからこんな企画にぴったりだ。

140分しゃべりっぱなし

コメンタリーの収録方法はまちまちで,邦画などはしゃべるのが日本人だからアナログトラックがひとつあればよい。洋画の場合はコメンタリー部分まで吹き替えになっているものもあれば,原語/字幕スーパーという仕様のものもある。

容量的に余裕のあるDVDでは字幕仕様が多いかな。わざわざ吹き替えにコストをかける必要もないし監督の声もオリジナルで聞ける。

LD版の「コンタクト」ではゼメキス監督と制作のスティーブ・スターキーが解説してくれるのだが,これは吹き替えである。まともな声優さんを使っているからそれなりにコストをかけてくれたわけだ。パイオニアさんけっこうがんばったじゃない。

聞いていると撮影時にどこそこはこんな具合だったとか,この時は天気が悪くて苦労したぜといった話が多いのだが,雑誌の特集記事やプロダクション・ノートの類よりはるかに情報量がある。活字媒体で細かいところまで追いかけるようなディープなファンにとっても知ったかぶりができるチャンスだぞ。

同じくLDの「Shall we ダンス?」はやはり監督の解説付きでゲストも2人,周防正行の「ココを見てくれ!」140分しゃべりっぱなしと称したコメンタリーが収録されている。こうなると自宅でああだこうだ言いながら友人たちと映画を見ているような感じだ。

鼻をすするのはやめようぜ

最近出た(今は2000年9月)DVDの「雨あがる」は黒澤明御大の遺稿を元にしたしみじみ時代劇だが,これにも監督と監督補の2人による対談という形でコメンタリーが収録されている。

これいいね,このカット

などと自賛しつつも,あまりテンションの高くない解説が続く。しかしその淡々としたところがいかにもこの映画にふさわしいような気がして番茶でもすすりながら聞いていたい気分になる。

そういえば,この「雨あがる」はコメンタリーをオンにして見ていたら「日本語字幕(解説付き)」というのが同時にオンになって,まるでシナリオを表示してくれてるみたいだと感心してしまった。たまたまそうなったのかもしれないけど,あ,細かい気配り〜などとちょっとびっくり。DVDの大容量はまだまだアイデア次第で面白く使えるのではないだろうか。

でもこのコメンタリー,監督補の方がズズと鼻をすするのがけっこう耳につくのだ。しゃべりのプロがしゃべっているわけではないので仕方ないが,でも収録中はなるべくガマンしようよ〜と言いたいな。

誰でもコメンタリー時代?

007シリーズ「The World Is Not Enough」のDVDには監督のコメンタリーのほかに美術監督・アクション監督・音楽担当の3人のコメンタリーが収録されていた。通してみると同じシーンに対して4人の担当者がああだこうだとコメントするわけだ。DVDならたくさん入るからこの傾向はもっとエスカレートするかもしれない。

するといずれスタッフ・キャスト入り乱れてコメンタリーの嵐になってしまうことだってあるだろう。ラブシーンひとつとってもこんな具合だ。

【監督】いやーこん時ゃまいったよ,この娘にゃどうもこのシーンの意味が分かってないみたいでね。もっと予算があったらメグ・ライアンにでもやらせたかったな。

【音楽監督】監督はどうも趣味がダサくて困るよ。しっとりしたラブシーンなのにここでM12を使おうなんて言い出すんだ。M12つったらオケ全開のシンフォニーだぜ。何考えてんだか。

【主演女優】あっ,ここは好き。あの指輪,前の晩にプロデューサーにおねだりして買ってもらったの。フフ,彼,あたしがちょっとおヒゲをなでてやるだけですっごくゴキゲンになるのヨ。

【小道具係】予算がないのは悲しいもんさね。外注できないから糊付け針仕事に照明助手と通行人までやったよ。ユニオンに知れた日にゃにらまれてえれえこった。そういやこのシーンのカーテンも金がなくてオレが3日がかりでしこしこマックで描いたんだぜ。

【衣装係】このシーン,打ち合わせじゃ青の2番のドレスのはずだったのに,直前になって紫のやつが欲しいと言われてあわてたよ。おまけにあのバカ女が「あたしは赤いのが着たい」などと本番で言い出しやがるもんだから!

……といったコメンタリーがずらずらと10人分も20人分も収録されたりすると面白いぞ。果たして真実はいずこに?ということになる。でも公式メイキングではみんな口をそろえてこう言うのだ。

最高の映画です。彼(彼女)と一緒に仕事するのはずっと夢でした。刺激的でハッピーな体験でしたよ。また一緒にやろうと約束しています……。

メイキングや予告編とはまた違ったコメンタリーの世界。未体験の人はぜひ1度見て(聞いて)いただきたい。そこここに新しい面白さが転がっていること間違いなし。もしかしたら10年来の疑問が解けるかもしれないぞ。