「スペース・トラッカー」で笑い倒せ!

さあ,おトクな掘り出し物だよ

A級サスペンスSF大作の雰囲気で始まりB級SFコメディのノリで終わる……そんな腰くだけ気味の予告編が笑わせてくれた「スペース・トラッカー」はなかなか楽しい掘り出し物である。実のところ全然期待していなかったのだが,見終わったときには「元は取った」と内心得した気分になっていた。

たま〜に懐が暖かくてつい(いつもなら選択肢から外れるような)余計な作品まで買ってしまうことがあるのだが,そういう買い物はハズレが多く,たいていはムダ金を使ったことを後悔することになる。

この作品もそんな買い物のひとつだったのだが,期待していなかった分,その意外な楽しさに口元がニヤニヤ。いやこれはもうけたな〜。

だいたいB級映画というのはマニアが言うほど面白い作品ばかりが転がっているわけではない。試しにWOWOWをしばらく見ていれば三流四流はやはりそれだけのものでしかないなあ,と実感するはずだ。面白い作品というのは何かが違うのである。その何かが色濃く現れていればいるほど観客を惹きつける力になるのだ。

この「スペース・トラッカー」はしょーもないB級スペースオペラだとは思うが,そう思いつつ結局最後まで見てしまった。力があったというわけだ。レースにたとえると9コースの選手が意外なしぶとさで3着にすべり込んでしまった,という感じかな。ここはスタッフの健闘を讃えようではないか。

デニス・ホッパーって……

この映画の主演はデニス・ホッパーである。ううむ,デニス・ホッパーといえば何かと話題の多い,それもちょっと下世話な,というイメージがあるのだがどうだろう?

ファンの方には申し訳ないのだが,僕などは彼が主演というだけで作品のグレードに一抹の不安が漂うのを感じる。他のジャンルならともかく,これはSFだからね。デニス・ホッパー主演SF大作と聞くとちびまる子ちゃんのごとく顔に縦線が走ってしまうのだ。

しかし,本作ではそのイメージがかえって好都合だった。

インテリジェンスや洗練さとはまるっきり無縁,腕っ節と度胸だけでわたってきたが最近はちょっとくたひれ気味の田舎オヤジ。まだまだ第一線バリバリのつもりでいるが,少しずつ取り残され始めている。そんな雰囲気がぴったりである。

何しろこいつは宇宙のトラック野郎のお話なのだ。宇宙船という高度なものを想像するからいかんのであってトラックの運転手と思えば違和感も薄らぐ。野田昌宏氏の訳文が似合いそうなキャラクターである。

気宇壮大とは裏腹に

ひょんなことからプロポーズ中の美女と新米トラッカーの青年のふたりを連れ,ヤバイ仕事で逃亡中の主人公。そこに宇宙海賊だの軍の秘密兵器だのが絡んで大混乱,というストーリーなのだが,なんせ典型的なB級作品なので冒険アクションというよりドタバタと言った方がいいかもしれない。

品のよさなんて薬にしたくとも見あたらない展開で,特に宇宙海賊が登場してからがおかしい。見た方はおわかりだろうが,半身をサイボーグと化したこの海賊のボスの「あの」お下品さが笑える。下ネタをもってくると一挙にシリアスな緊張感が怪しくなってしまう好例だ。あのチープな機械式ペニスで迫られたときのヒロインのギョッとした表情ときたら。そりゃそうだろうなあ。

映画冒頭のスリリングな戦闘場面からの期待を裏切って?ついにこの映画は突っ込みを入れながら歓談しあうお気楽ムービーと化すのである。

だが,それでよかったのだ。

それなりに緊張も派手なアクションもあるのだが,何よりもこの吹っ切れた娯楽感覚が楽しい。映像の端々に低予算がのぞいてもそこはさすがにアメリカ産,エンタテインメントの常道はきちんと踏んでいる。クライマックス後の展開が思いのほかひねってあるので「ん,なかなか」と気分良く見終わることができる。まあ,これを読んだからといってあんまり期待しちゃいけないけどね。気持ちのいいご都合主義というところだろうな。

ほう,なかなか手堅いではないか

僕のようなロートルのSFファンにはSFと疑似SFの違いは明瞭で,かつこだわりたいところでもあるのだが,この映画はそのお気楽さに似合わず意外としっかりSFしている気がする。ちょうど手堅い中堅SF作家の作品を読んだときのような印象で,感動とか傑作といった賛辞はともかく「やあ,今回もなかなか楽しませてもらったよ」といった感じだ。

今の僕はもう知識をため込むことに勤勉ではないので,誰それがどういう仕事をしている,なんてことには疎い。ホラー映画の鬼才スチュアート・ゴードン監督作品,とか言われても全然ピンとこない。他のクレジットを見ても同様だ。しかし,ちょっとしたセンスをを隠し味のように感じさせてくれるとうれしくなる。意外に堅実な仕事に彼の国の層の厚さを感じるのである。

あ,ターミネーターみたいな殺人マシーンのデザイン,空山基だけは知ってるけど,それにしても意外なところで仕事してるんだなあ。

ラストでひとつ気に入っているのはヒロインの母親の設定。ネタバレになるので詳しくは書けないが,僕はこの仕掛けがけっこう好きだ。予想はできたんだが,これも娯楽映画らしい心地よい予定調和のひとつかな。しかもその彼女が穏やかでありながら図太いというか非常事態にもすぐ対応できる性格のようで,中年男性(僕のことね)にとってはたいへん好もしい。フラれ役のデニス・ホッパーにも春の予感で異論はあるまい。

ドタバタと思って見ればまずは十分に楽しい1作だと思う。