「スターシップ・トゥルーパーズ」のド迫力!!

原作とタメをはれ

一応ロートルのSFファンとして,ハインラインも基本は押さえているつもりだが「宇宙の戦士」にはそれほど思い入れはない。昔SF文庫で読んだクチなので加藤氏描くところのパワードスーツの絵だけが印象に残っている程度だ。

だから映画版の「スターシップ・トゥルーパーズ」について「原作とは似ても似つかない」だの「設定を借りただけ」だのという評を読んでもふうん,そんなもんかという感想しかなく,LDでの初見となったこの作品はほとんど前情報なしで臨むことができた。

いやあすごかったね〜これは!

とかくハリウッドのあざとい演出と物量作戦は批判されがちだが,これだけのものを見せてくれたら文句のつけようもない。要は作り手の強烈な意気込みとパワーがレッドゾーンまで突っ走っているかってことだな。中途半端な物量,中途半端な活劇,中途半端な演出……一線を越えきれない弱さこそ二流の証というわけだ。

俗悪に徹せよ

この映画の"徹底度"は全くもってすごい。鳴り物入りで登場したハリウッド版大型爬虫類映画(そもそも巨大トカゲと怪獣では存在の意味が全く違う。光線を吐かないGなどGではない)とはまるでレベルが違う。バーホーベン監督は俗悪で悪趣味でケレン味たっぷりだが,むき出しのスピリットがデモーニッシュな迫力を生み出している。すごいやつだ。

全編をおおう軍事ニュースというかプロパガンダのあざとさは強烈な皮肉であり,ブラックきわまりないギャグでもある。気の合った(しかも口の悪い)仲間内だけで交わされるような天をも恐れぬバカ話を,そのまま満天下にぶちまけたようなものだ。

故に残酷であり,人の命は紙より軽く,体制は絶対であり,人類は至高である。そんな妄想をひひひとほくそ笑みながらながめている描き方である。いやー毒々しくてよいね。それでいて,なまじっかの戦争映画とは比較にならないほどストレートに戦争の醜悪さや無慈悲さ,残酷さを見せつけてくれる。構造的にも侮れぬ作りなのだ。

特撮ならここまでやれ!

むろん,SFXもすごい。何がすばらしいと言って真っ昼間の大地を舞台にしたド迫力の戦闘シーンには呆然としてしまう。いったいどうやってこんなシーンを撮ったんだろう?

宇宙空間や夜の嵐の中,あるいは何やらわからんけどいたるところからシューシューとガスや蒸気が噴出している場面等々。今までのSFXは迫力を生むためもあろうが,そんなごまかしの要素が多い画面で構成されていた。しかしこの映画は荒涼たる昼間の大地,しかもピーカンというもっともごまかしのきかない状況で信じがたいほどの絵を生み出している。脱帽するしかない。

春のアカデミー賞授賞式の際,SFX部門でチラッとだけ流れたこの作品の映像はただならぬ迫力を感じさせてくれたが,まさかこれほどまでに突き抜けたものだとは想像もつかなかった。オスカーをもらえなかったのは,ひとえに審査員が毒気に当てられたからであろうと勝手に思っているのだが,さてどうなんだろうね。

ハイパー俗悪ムービーの毒をを見よ

そう,毒気に当てられるというのはこの映画の感想としてはもっとも適切なものかもしれない。僕も最初に見たときは口をあんぐりという状態だった。なんかとんでもないものを見てしまったという感じ。バーホーベン恐るべし。

それにしてもこれほど超弩級のインパクトをもった作品に対してキネ旬などの取り上げ方の小さいこと!どうせ賛否両論あるだろうし,大特集でこの危険な映画を取り上げてもバチは当たらんと思うぞ。戦争観を問われると評論家の本性がわかって面白いのにな。

いかに残酷でいかに悪趣味であろうと,空前絶後のすさまじい絵を作り出したこの映画は,90年代SF映画の金字塔かもしれない。原作がどうのという話はすでに1000光年彼方に遠ざかってしまった。