たいくつな大都会


〜カナダ〜アメリカ〜


カナダの中部ウィニペグからバスで35時間、ようやくナイアガラに到着した。 西側のバンクーバーからここまで、全部で70時間をバスで横断したことになる。 金額にすると372カナダドル(約30,000円)だ。列車にも乗ってみたかったけれど、 料金と時間的な問題で、結局バスの連続になってしまった。つくづくバスパスを (バス乗り放題のパス)を買わなかったことに後悔である。

 宿泊はユースホステルを利用。いろんな国のツーリストと6〜8人の共同部屋に泊 まる。ベッドひとつが17カナダドル。(約1,360円)プライベートはないけれども、部 屋や共同キッチンは情報交換ができる貴重な空間だ。
翌朝、ユースからナイアガラの滝に歩いて向かった。滝に近づく道のりを少しづつ 歩く。目の前に見えてるのに、歩いてもいっこうに近づけない広大な滝。しかし滝へ の興奮とうらはらに、この感動を自分一人でしか味わえない淋しさと、今のこの旅に 物足りなさを感じていることに気づいた。


 カナダに入って10日。それなりに各都市や移動のバスの中でいろんな出会いがあ り、たくさんの親切に逢い、友達もできた。それなのに何かが足りない。今までの2 週間の旅の中でも‘起承転結’があった。10日を過ぎた今も‘起’が始まってない 気がしていた。
 とにかく前に進もうとニューヨーク行き夜行バスに飛び乗った。前払いした1泊分 のベッドはあっさり捨ててしまったのである。
 入国審査官の女性は、きびしい目でパスポートに目を通した。目的は?滞在予定は ?ホテルは?所持金は?・・次から次への質問をぶつけたあと、最後に言った。
「ニューヨークはとても危険なのよ。充分気をつけて」と。


   ニューヨークで妙な出来事があった。マンハッタンのYMCAロビーで空室待ちを していた時である。
「ツインなら空いてるの。一緒にシェアしない?」 と英語で声をかけられたのだ。国籍不明の太った女性である。年は40歳ぐらいにも 見えるが、25歳と言われれば見える気もした。彼女は、なぜかしつこく「一緒に泊 まろう」ととさそい続けてくる。
 しかし、さそわれたのは部屋のことだけでなく、もうひとつあるらしい。しきりに 「プレイしようよ」
というのだ。
「何のプレイ?」
と聞くと
「プレイよ、プレイ。えっ本当に知らないの?」
と変な笑いを残した。そして
「ちょっと荷物見ててね」
と席をはずした。
 その時その光景を見ていたフロントの女性が私を呼んで言った。
「彼女は知り合いなの・・? 知り合いじゃないならツインに一緒に泊まるなんてや めなさい。ここはニューヨークなのよ」
目が覚めるような言葉だった。平和ボケしていたのかもしれない。そしてフロントの 女性は私に
「今シングルが空いたから」
と教えてくれた。
あとで考えるとなんの“プレイ”だったのか、とても気になった。しかしもう彼女 とは会わずじまいだった。


数日後、旅行社で翌日のロンドン行きのチケットを買った。354$(36,000円) もっと安いものもあるが、私はバージンアトランティックに乗って見たいと思い、ロ ンドンに入ろうと思ったのである。しかし買った後、大切なことを忘れていた。イギ リスは片道入国を認めてなかったのだ。イギリスを出国する航空券を所持してなけれ ば入れない・・という記憶がある。私は慌てて旅行会社へ戻った。
 結局、ロンドンからニューヨークに戻るチケットを発行してもらった。そのチケット をロンドンの支社に必ず持っていくという約束の上である。
無事入国を許可された私は、航空券を戻し、バスとフェリーと列車でパリ、そして ポルトガルへ、ただ黙々と進んでいた。



●次はリスボンの野外ダンスパーティ(ポルトガル)です。

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