イスタンブールのコレラ騒動


〜ギリシャ〜トルコ〜


『トルコでコレラ蔓延』の噂を聞いたのは、アテネでトルコ行きの方法を探していた 時だった。
『国境は閉鎖だよ。バスも列車もきっと走ってない。トルコの病院では足りなくな って、患者がこっちの病院にもきてるらしいし・・』と言うのだ。
ここまで来ているのに・・・、ずっと行きたかったカッパドキアのこんな近くにい るのに・・。
しかし、ユースで、トルコからアテネに入った日本人によると、何事もなかった ように言う。ここアテネで旅行会社をやっている日本人に聞きに行くと、
「特にこのシーズンは、観光客の取り合いでそういう噂がでるんだよ。ギリシャとト ルコは仲が悪いからなあ・・。お互いこの時期に観光収入をあげないと困るんで、本 当のところはわかんないけどね」と言うことだった。
たしかにギリシャ人と話してて、「トルコに行く」と言うと「なんであんな危険な国 にいくんだ?」と顔をしかめられてしまうのだ。
ちょっと迷いはあったが、結局イスタンブール行きのバスに乗ってしまった。ヤバそ うだったら、飲まず食わずで戻って来るつもりである。
トルコ人に言わせれば、
「何言ってんだ。ギリシャこそコレラが流行ってるんだぞ」
と言うのだから、本当のところはわからない。


トルコは物価は安いし、食べ物もおいしい。スルタンアフメットという観光の中心地 のユースでも、1日165,000トルコリラ(約550円)で泊まれる。食堂では、何種類もの大皿の 中から気に入ったのを“見て”注文できる。白ごはんやバターライスが、手軽な食堂 でお目にかかれることがうれしい。
またこの地区はブルーモスクやアヤソフィア、トプカプ宮殿など見所が集中していて、 外国人観光客であふれている。その開放感のせいだろうか・・8月の蒸し暑い今、“ 短パンにノースリーブ”というイスラム圏のタブーである“肌の露出”を平気にさせ てしまっている。そんな格好の人がたくさんいるのだ。でもそれはこの国の人に、外 国人に対して“ちょっとちょっかい”を増やしてしまう結果になっているように感じ られる。
とにかく町にでれば、ギラギラした目で追われ、つけられたり、からかわれ・・、 そのやり方はモロッコやエジプトよりもっと執拗だ。ましてや日本語が話せる人も少 なくなく、からかい方も俗悪に思う。 好きな国だけにとても残念なことだ。


夕方、イタリアに発ったはずのミサさんが、空港で急に具合が悪くなってしまい 戻ってきていることを知った。彼女とは同じ部屋で、そう多くは話していないが、た しかドイツ人の友人とキャンプをしながら、旅しているはずだ。友達はどうしたのだ ろう。
彼女は空港で、20回ぐらい吐いたという。青ざめてぐったりしてる。ただの食あた りならいいが、コレラの噂が気になっていた。
病院にたどり着くまで一騒動だった。保険会社に緊急医療の連絡をしてみたが、「ト ルコは病院の資料がない」などど言われるし、ユースのフロントはアテにならず、 やっと英語がわかるドクターに見てもらうことができたのだ。
ドクターはコレラではないと説明した。私たちは心からほっとした。


トルコの長距離バスは思いがけなく立派である。冷房がよく効き、車内サービスとし て、ミネラルやコーラが配られたり、柑橘系のコロンをたっぷり手のひらにつけてく れる。隣りのトルコ人が
『こうやるんだよ』
と顔や体にすりこんでみせてくれた。
運賃は、バス会社が多いため、競争が激しく交渉可能だ。出発ギリギリだったり、学 生だと安く交渉できるという。
しかし、しつこくねぎって買った私たちは、目的地カッパドキアの途中で降ろされて しまうハメになった。
あっちだこっちだとミニバスを乗り換え、カッパドキアのギョレメという村にたどり 着いたのは昼過ぎ。思ったよりもこじんまりした村で、バス停と民宿と土産物やが数 件あるだけで、あとは三角の大きな奇岩やキノコ岩が囲むようにそびえていた。その 奇岩を改造したという民宿は、1泊500円ほど。むき出しの岩がそのまま壁になっ ていて、ひんやり涼しい。

トルコの田舎を満喫し、イスタンブールへ戻ってきた。最初は失敗したバスの運賃交 渉も、学生気分で「スチューデント・ディスカウント」を連発し、すっかりうまくな った。途中、原因不明の腹痛・胃痛に苦しみ、もしかしてコレラ?という心配もした が、無事トルコを出国する日がきた。
入国はすんなりだったのに、出国はかなりの時間がかかり、検疫官はひとりひとりに “お腹をこわしていないか”とかの問診票を記入させた上面接をした。もしかしてコ レラは本当だったのかもしれない。しかしトルコ市民はいたって平和で、まったくそ ういう混乱はなかったが。


●次は東欧唯一の日本人宿テレザ(ハンガリー)です。

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