ひとり旅との出会い


  もともと海外旅行なんてほど遠い生活だった。
地元の短大を卒業後、印刷会社に就職で総務部所属。お茶くみ、コピーとり、 現場の人たちの残業計算、電話交換・・。それが社会人としてのスタートである。 当時の手取りが10万円、ひとり暮らしにはギリギリの生活。でも先輩のススメで、 給料引きのわずかな貯金を始めた。


 社会人2年目のある日のこと、高校時代の友人が一枚のちらしを私にもってきた。
《アメリカ西海岸4泊6日148,000円》
今でいうと全然安くないが、当時は激安である。「安いねえ・・行こうか・」と私た ちはいとも簡単に答えを出した。
 会社の同僚たちからは“お餞別”と“無事に”と寄せ書きした白いタオル。出発当日、 心配そうに見送ってくれた父。この旅行が、私のそれからの人生を変えることになる のだから、不思議なものである。
 帰国ののち、格安航空券をメインに取り扱う旅行会社に転職。私は旅づくりの第一歩 を踏み出した。もちろん格安航空券なるものの言葉も存在も初めて知った。航空券だ けで外国に旅に出かける不思議な?人がいることも・・である。


   最初に休みをもらったのは、入社して半年後だった。
上司から「ウチは海外へいくんだったら休みあげるけど・・・国内旅行やタダの休み はダメだよ」と言われ、私はひとりオーストラリアへと飛び立ったのだ。そして言葉 の不自由な中でも、友達ができ、周りの人に親切に出逢い、ひとりであることは現地 の人とこんなにふれあえるんだと感動したのである。


 ひとり旅には、たしかに大きなリスクがある。海外であれば、言葉、習慣、宗教の壁 は大きい。それに伴う危険。また休みを取るにあたって、お金や会社のこと。私がそ れらのものを充分クリアして出発したかというと、それは否であるし、人並はずれた 勇気と行動力をもっていたわけでもない。高給取りでないし、英語も自分の意志を伝 えるのがやっとのこと。この世界一周も、ボディランゲージと、ヘタな絵や、目で一 生懸命うったえるシーンがどれだけあったことか。
 安全な旅の仕方や、ねらわれない格好があるなら、私も知りたいなあと思うぐらいで あるが、これから書く私の旅の姿が、良きにも悪きにも参考になれば幸いである。 旅のスタイルは数多くあるし、人それぞれ価値感もちがう。せっかくだからお金をか けて贅沢したいという人もいると思うし、なるべく安く何回も行きたいという人もい ると思う。133日間世界一周で65万円って安い?と思う人が多いかもしれないが、 とことん貧乏はしていない。それよりも訪れた国の庶民の生活により近づきたいと考 えて歩いてきたつもりである。


いろんな国の人との心のふれあいは、旅を終えてからも、鮮やかに思い出される。壮 麗な建物や遺跡もすばらしいことにか違いないけれど、出会いには自分だけのシーン があって、それは時間が経てば経つほど、あたたかく身にしみてくるものだと思う。 見知らぬ国のとある町で、“まず今日の宿をさがす”という“すること”があること が、数々の出会いをつくってくれたのだ。その緊張と期待がいつも始まりになった。 そして、そのひとり旅は、起こりうることに正面から向かう元気な私を取り戻してく れたのだから。


●次は初めての日本食(カナダ)です。

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