"2112 tour" を記録した "All The World's A Stage" のリリースと前後して、Rush はふたたびロードにでました。短かった "2112 tour" の続きともいえる、"All The World's A Stage tour" です。
まずカナダ、アメリカ西部を舞台としたツアーが8月から12月の中頃まで続きました。
最初に 10/25/76 Seattle, WA でのショウを見てみましょう。
- Bastille Day
- Anthem
- Lakeside Park
- 2112
- Fly By Night/ In The Mood
- Something For Nothing/ instrumental Blues Jam
- In The End
- By-tor And The Snow Dog
- Working Man/ Finding My Way/ Working Man/ Drum Solo
(encore)
- What You're Doing
- Best I Can
"2112" tour からまだ時間が経っていないため、ほとんど同様のセットです。違いといえば、"In The End" と "By-Tor" の位置が入れ替わっていることくらいです。
ですが、この日は非常に力のこもったライヴを展開しています。
"2112" はまだ "Discovery", "The Dream" を省いたバージョンです。
"In The End" のブリッジでのカウントは "One, Two, Buckle My Shoe" バージョンです。
"Something For Nothing" のエンディングには、Rush にしては珍しく、割と長めの Jam があります。
さらに、アンコールに応えて "Best I Can" まで飛び出しています。
北米における Rush の人気は不動のものとなってきたのがわかります。
#実は、この日は FM 放送されるはずだったとのことです。出回っている音源からも、サウンド・ボード録音されたバンドの音と、曲間のオーディエンスの歓声がミックスされているのがわかります。
なお、ブート CD で出回っている同日の音源は非常に不完全なものです。
カナダを含む北米ではヘッドライナーをつとめるようになっていましたが、アメリカ西海岸、しかもカリフォルニアなどの典型的なアメリカン・ロックが幅を利かせている地域では、まだ前座でしか演奏できず、セットリストは次のようなものでした。
- (Intro/ Bastille Day)
- Anthem
- Lakeside Park
- 2112
- Working Man/ Finding My Way/ Working Man/ Drum Solo
(encore)
- Fly By Night/ In The Mood
これは 11/28/76 Fresno, CA でのショウのセットリストです。残念ながら現存するテープでは "Bastille Day" は収録されていませんが、前後のショウが同曲で始まっているので間違いはないでしょう。
基本的には "2112 tour" とほぼ同様の演奏です。前座であることから、"2112" はやはり "Discovery", "The Dream" がカットされています。しかし、もはや3人の息は完璧にあっていて、その演奏には隙が全くありません。さらに、Geddy の歌もこなれており、ところどころにアドリブを交える余裕すら見えます。
約1カ月の休息のあと、再び北米を中心としたツアーが始まります。
ATWAS やそれまでのスタジオ盤のの好調な売れ行きのおかげで、このころからヘッド・ライナーとしてのステージが徐々に増えてきます。
そんな、長い時間をとれるようになったショウのひとつ、04/17/77 Washington, DC. のセットリストを見てみましょう。
- Intro/ Bastille Day
- Anthem
- Lakeside Park
- 2112
- The Twilight Zone
- Something For Nothing
- By-Tor And The Snow Dog/ The Necromancer
- In The End
- Working Man/ Finding My Way/ Working Man/ Drum Solo
(encore)
- Fly By Night/ In The Mood
(encore)
- What You're Doing
時間がとれたせいか、アルバム 2112 から、"2112 tour" では演奏していなかった "The Twilight Zone" をセットに加えています。
また、"By-Tor And The Snow Dog" は、続編である "The Necromancer" とのメドレーで演奏されています。
Rush 史上最もアバンギャルドな(笑)ジャムから、Neil のかけ声とともに始まる"By-Tor" は第3章、"The Battle" まで演奏されます。そして、"Epilogue" には行かずに "The Necromancer" の第2章、"Under The Shadow" の終わりのインスト部分につながり、終章である "Return Of The Prince" が演奏されています。
#楽曲的には非常にかっこいいこのメドレーですが、詩の内容的には...いいのでしょうか (^_^; 確かに "The Necromancer" は "By-Tor" の続きですが、 いったん"By-Tor" で "Snow Dog" との戦いが終わり、"The Necromancer" では新たに "By-Tor" と "Necromancer" との戦いが描かれているはずですよね。それなのにこのメドレーでは "By-Tor" 対 "Snow Dog" が "By-Tor" 対 "Necromancer" にすり変わっている...
一時セットから消えていた "In The End" も復活しました。
この時の "In The End" のブリッジでの Geddy のカウントは "One, Two, Three, Four!" でした。ATWAS に収録されている、"One, Two, Buckle My Shoe" のバージョンとは、気分で変えていたのでしょうか?
Neil のドラム・ソロにも微妙な変化があります。それはカウベルによるメロディ演奏の部分です。
前回の第4回で、この部分がほぼ完成していたことを書きましたが、実はカウベルの音程がそれほどあっていませんでした。それが、この日のテープで聴ける演奏では音程はばっちりですから、おそらくカウベルのセットを買い換えたのでしょう (^_^)
それ以外の部分も、どんどんスタイリッシュになっていっています。ただ、まだ現在のドラム・ソロほどリズムが一定ではありませんが。
#上ものによるソロ部分でベードラによるリズム・キープをしているのが、Neil のドラム・ソロの最もすごいところだと思うのですが、どうでしょう?
さて、この "ATWAS tour" の 2nd leg を終えた Rush は、ついにヨーロッパへとその勢力を伸ばしにかかります。
実際には、家族や友人から離れて、イギリスでニュー・アルバムを録音することにしたついでに、短いヨーロッパ・ツアーを組んだのでした。
#このヨーロッパ・ツアーの日程の全貌は、まだ不明です。
では、そのヨーロッパ・ツアー初日、06/01/77 Sheffield, UK のセット・リストを見てみましょう。
- Intro/ Bastille Day
- Anthem
- Lakeside Park
- 2112
- Xanadu
- Something For Nothing
- By-Tor And The Snow Dog/ The Necromancer
- In The End
- Working Man/ Finding My Way/ Working Man/ Drum Solo
(encore)
- Fly By Night/ In The Mood
直前の北米ツアーのセット・リストとほぼ同じですが、なんと "Xanadu" が演奏されています。そう、アルバムの録音を直後に控えたこのツアーでは、新曲として "Xanadu" が披露されたのでした。まさにこの日は "Xanadu" の初演だったのです。
バンドはロード中の時間を有意義に使っていた。彼らは新曲を作り始め、サウンド・チェック中に新しい楽器の演奏を学び始めた。
新しい楽器を使った最初の曲が "Xanadu" だった。"ATWAS tour" の後半に作業は始まっていた。
(Visions: The Official Biography より抜粋)
ほんの少し、違いも見受けられますが、様々なパーカッションを使ったイントロから、既にほぼアルバム通りのアレンジが聴けます。
この時から Alex のダブルネック・ギター、Geddy のあやつるベース・ペダル、ミニムーグなどがステージ上に姿を現したのです。
#この初演ではミニムーグによる最初の演奏のとき、音が前にでないという PA のミスがありました。しかし、翌日のショウでは完璧なバランスでミックスされています。きっとクルーはこっぴどくしかられたのでしょうね。
そのほかの変化ですが、最も大きな変化は "2112" です。ついに "Discovery" が演奏されるようになりました。
それに、演奏のテンポがそれまでに比べ、ぐっと押さえられています。もちろん "Temples Of The Syrinx" などのパートのスピード感はそのままですが、展開の変わり目のタメは今までには聴かれなかったものです。
さらに、Geddy の声色の使い分けもアルバムよりもずっと劇的になっています。
"Presentation" で聴かれる神官と主人公の掛け合いの感情移入など、アルバムをしのぐといっても過言ではありません。ピーガブ並み、とでもいいましょうか (^_^)
ともかく、ゼップのコピーバンドと評された Rush は、もはや新人バンドではなく、十分な風格を漂わせ始めたことがわかります。
なお、スタジオアルバム "2112" からの曲で、これ以降ステージ演奏される曲は増えませんでした。結局、"Lessons", "Tears" の2曲がステージ演奏されなかったことになります。
さて、新曲を披露しつつ、それまでの曲のアレンジをよりよくなるよう練り始めた Rush は、次作でさらに劇的な世界を描きます。そしてそのアルバムに伴うツアーもまた、さらに劇的になってゆくのです。