The Sphere Logo


Serialization: A STAGE OF RUSH

#6. "A Farewell To Kings" ("Drive 'Til You Die") Tour

atwas
Released:
 Sep. 1977
Mercury/Polygram
Produced by
 Rush and 
Terry Brown

Tracks:
 A Farewell To
  Kings
 Xanadu
 Closer To The
  Heart
 Cinderella Man
 Madrigal
 Cygnus X-1

 イギリスとカナダを往復して完成した "A Farewell To Kings" のプロモーションのためのツアーは、アルバムリリースとほぼ同時、77年9月の初頭に始まりました。




 グループとクルーは、この休暇だけで彼らが最近終えたばかりのマラソンツアーの疲れを完全にいやせたわけではない。しかし、まだラジオとの問題が残っており、ライヴ・バンドの名に恥じない活動をする必要があったので、彼らは新譜がリリースされた9月に、再びロードにでる必要に迫られた。

 Rush は組める限りの日程で、全ての都市でプレイした。
 2,3週間で、アメリカ各地の6,7都市で15回以上の公演をしたかもしれない。
 Geddy と Alex の二人は、後に "2112" から "Hemispheres" までのツアーは、果てしない公演の連続のようだった、と語っている。
 しかし、ロード・バンドとしての生活は、バンドの音楽を気に入ってくれそうなファンをさらに増やすべく、続いていた。

(Visions: The Official Biography より抜粋)




 9月6日に始まった "Drive 'Till You Die"(死ぬまでドライヴ)ツアーで、Rush は12月の中旬まで全く休むことなく、まさにアメリカ中をサーキットしました。NMS にある Tour Dates Listing を見ていただければ、どんなにすごい強行軍だったのかがわかると思います。

 では、このツアーのセット・リストを見てみましょう。なお、このツアーではもはやほとんどのショウがヘッド・ライナーとしての演奏でした。

  • Bastille Day
  • Lakeside Park
  • By-tor And The Snow Dog
  • Xanadu
  • A Farewell To Kings
  • Something For Nothing
  • Cygnus X-I
  • Anthem
  • Closer To The Heart
  • 2112
    (encore)
  • Medley:
    • Working Man
    • Fly By Night
    • In The Mood
    • Drum Solo
    (encore)
  • Cinderella Man

 1曲目は "All The Worlds A Stage" と変わらず、"Bastille Day" です。オーケストラ・サウンドのオープニング・テープに続くバンドの紹介の直後、ヘヴィなギター・リフが切り込んできます。

 続く "Lakeside Park" も "COS" からの曲。この曲は、前のツアーとはずいぶん印象が変わりました。シンセによる装飾が増えたことと、Geddy のベース・パターンがより饒舌になったためでしょう。
 このツアーにおける "Lakeside Park" は、スタジオ盤をはるかに超えるかっこよさです。

 前のツアーではクライマックスを担っていた "By-Tor" が3曲目に登場です。バンドの新曲に対する自信のほどがうかがえます。
 このツアーでは "The Necromancer" ではなく、新曲 "Xanadu" に続きます。

 #私が勝手にファンタジー・メドレーと呼んでいるこの2曲の連続は、ファンにとってはたまらない構成だと思います。このメドレーを好きだというファンは多数いますし、Rush がこのメドレーを "Permanent Waves" ツアーまで続けたのも、やはり受けが良かったからでしょう。確実に、ショウのハイライトになっています。


 "Xanadu" を終えて一息つくと、Geddy は「次の曲は Alex のクラシカル・ギター(クラシック・ギターではない)をフィーチャーした曲です」と紹介します。"A Farewell To Kings" です。まさに盛り上がりっぱなし。
 プログレッシヴ・ロックに影響を受けた、当時のバンドが歩んでいた方向を端的に表した曲でしょう。アルバムでは地味な印象も受けますが、ステージでは緩急が強調され、よりダイナミックに演奏されています。

 長尺3曲が続いたあと、"Something For Nothing" が演奏されます。
 この時期から、"〜It's called You Don't Get Something For Nothing" と紹介されています。「無償のもの」というよりは、「なにも無償では得られない」という方が、歌詞に沿ったいい呼び方ですね。

 初期に通じるハードロック・ナンバーの終わりとともに、低い持続音が響き出し、それに乗ってテリー・ブラウンの低い声による語りが始まります。
「白鳥座に、神秘的な、不可視な力が潜んでいる。ブラック・ホール、シグナス X-1 だ」
 Visions によると、この時はステージ全体が暗転しているとのこと。まさに劇的。観客がどれだけ興奮したことか、想像に難くありません。タイムマシンがあったら絶対に見に行きたい!
 演奏自体も息をもつかせぬ緊迫感で、そのドラマ性はスタジオの10倍はゆうに増幅されています。最後の Geddy の、ロシナンテ号の乗組員の叫びまで、観客は誰1人声を上げられません。
 Alex の、クリーン・トーンのアルペジオによるアウトロが次第に消えて行くと、堰を切ったように歓声が上がります。

 #私も雄叫びを上げてしまいます... (^_^;


 この歓声を切り裂くかのように、続いて演奏されるのが "Anthem" です。興奮状態に油を注ぐ曲順ですね (^_^)


 しかし、Rush は本当に MC が少ないですね。もともと Geddy は MC が得意ではないであろうとは思うのですが、それにしても少ない。
 しかも、普通ならするであろう、曲目紹介すらほとんどしません。
 でも、観客はどの曲でもイントロが始まった瞬間に、どの曲が始まったのか理解しているようです。つまり、みんなアルバムをよく聴き込んでいるということです。
 これが、Rush の MC の少なさの原因のひとつなのではないでしょうか?

 Rush を見に来るのは、このころからすでに忠実な Rush ファンがほとんどだったのでしょう。Rush もそれを知ってか知らずか、ショウの流れを断ち切るような MC はほとんど行わなくなったのだと思います。


 "Anthem" が終わると、現在まで欠かさず演奏されることになる "Closer To The Heart" に続きます。この短い曲は Rush というバンドが持つ、飽くなき向上心を表明した Rush のテーマ・ソングともいえるのではないでしょうか。

 比較的穏やかなこの曲が終わると、またしても間髪を入れずにテープによる効果音が会場に響きわたります。
 もはや Rush の代表曲となった "2112" は、今までのツアーと違い、ショウのクライマックスとなりました。
 公演を重ねるごとに磨かれた Geddy のヴォーカリゼーション、もはや非の打ち所などない3人のインスト・パートは、西暦2112年のドラマを劇的に再現してゆきます。
 そしてテリーの声によるアラートが会場を駆けめぐると、「ありがとう!」と一言いって Rush はいったん袖に消えます。

 しばしの休憩のあと、アンコールは 1st, 2nd からのメドレーが演奏されます。"Working Man〜Fly By Night〜In The Mood" という、ノリのいい曲が続いたあと、なんと Neil のドラム・ソロがメドレーのトリです。
 はたして、アンコールの、しかも最後にドラム・ソロを持ってきたロック・バンドがかつてあったでしょうか?(私は知りません)
 それほどまでに Neil の人気は上がっていたのでしょう。いまでも Neil の人気は絶大で、例えば会場のスクリーンにメンバーのアップが映し出されたときでも、Neil の時に上がる歓声は Geddy, Alex の時とは比べものにならないそうです。
 最後の最後、Geddy と Alex が加わってショウは終了します。

 それでも観客のアンコールを求める声がなりやまないと、2nd アンコールとして "Cinderella Man" が演奏されました。同曲はこのツアーの 2nd アンコールでしか演奏されませんでした。




 実は、この9月はじめから翌78年の2月の終わりのイギリスツアーまで、セット・リストはほとんど変わりませんでした。
 違いといえば、2月のイギリス・ツアーの Glasgow での2回の公演でのみ、"Anthem" が演奏されなかったくらいです。
 さらに、78年4月に "Archives" と題された、最初の3枚をセットにした廉価版が発売されたあと、5月のあいだだけの短いツアーを行っていますが、そのときのセット・リストも全く変化がありませんでした。

 ところが、Visions の32ページ右、最後の段落には、11/26/77 のショウはあたかも "Cygnus X-1" で始まったかのように書いてあります。しかし、前後のショウを見る限りそういったことはないと思われますので、これは B 君の記憶違いではないでしょうか?

 ということで、アルバム "A Farewell To Kings" からステージで演奏されなかったのは、"Madrigal" のみということになります。

Fly In The Night
Recorded:
12/--/77
Montreal, PQ
(incomplete)

Xanadu
A Farewell To Kings
Closer To The Heart
Something For
 Nothing
Cygnus X-1
Medley:
 Working Man/
 Fly By Night/
 In The Mood
Cinderella Man

 なお、現在までにでているこのツアーの唯一の Bootleg CD の "Fly In The Night" は12月の Montreal 公演を部分的に収録していますが、なぜか "Closer To The Heart" だけ、編集で曲順を入れ替えられています。

 #この CD を出しているレーベルはイタリア切ってのバッタ屋ですので、こんなめんどうな編集をするとは到底思えません。また、曲間、各曲のイントロでは確かに観客の手拍子や声が間近に聴こえるものの、曲の大部分ではそれが聴こえず、かえってヴォーカルが鮮明に聴こえることから、もしかしたら FM 用かなにかに編集された、オーディエンスとサウンド・ボード・テープをミックスしたものなのかもしれません。




 さて、かなり褒めちぎりました (^_^)。でも、ハードなプログレッシヴ・ロックという、本当に私の大好きなスタイルですので、文句のつけようがありません。

 しかし、Rush にはいくつかの問題も浮上してきたのです。

 まず、ステージでの再現を視野に入れずに行った "A Farewell To Kings" のレコーディングのせいで、フロントの二人は今までとは比べものにならないほどの負担がかかり始めました。

 Geddy はより複雑になったベースラインを弾きつつ、歌を歌い、さらにはムーグ・タウラス・ペダルをコントロールしなければならなくなりました。
 Alex も同様に、曲の表情ごとにギター・エフェクトを切り替え、Geddy の足が足りないときにはタウラス・ペダルを弾くことが必要になりました。

 当時はフレーズをサンプリングしてペダル鍵盤に割り当てる、などということは当然できませんでしたから、本当に足でメロディを弾かなければなりませんでした。
 リハーサルは十二分に積んだのでしょうが、このツアーでは足鍵盤の音を外すことはそれほど珍しくありません。

 また、この問題に付随して、ステージ上でのフロントの二人の動きが極端に少なくなった、という視覚的な問題もでてきました。
 といっても、これは音楽自体が伝えるエキサイトメントが充分に補っていましたが。

 もう一つの問題は、テープの使用によるトラブルでした。

 "2112" に加え、"Cygnus X-1" でもテープを使用し、クルーの負担は増加していきました。そのせいか、時には "Closer To The Heart" の終了と同時に鳴り出すはずの "2112" のイントロがいつまでたってもでてこないで、結局 Neil のカウントで始まったこともありました。

 この時期にはもはや Rush のステージは3人のメンバーだけで作られるものではなくなっていました。クルーたちの力なくしては、この劇的な構成のライヴは実現できなかったのです。そして、これ以降、ショウの複雑さは増す一方でした。




 "Cygnus X-1" という、Rush にとって初めての、次作にそのアイデアを引き継ぐ曲のせいで、Neil は苦しみました。そして、難産の結果生まれた "2112" 以来の大曲により、ステージはさらに劇的になります。しかし、それと同時にそれらを演奏し続けることによる、メンバーおよびクルーの体力的な負担も増加して行くのです。

NEXT.... "Hemispheres" tour


Prev. Tour |Next Tour |A Stage of Rush index |Back to Rush index