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Serialization: A STAGE OF RUSH

#4. "2112 Tour"

2112
Released April 1976
Mercury/Polygram
Produced by
 Rush and
 Terry Brown

Tracks:
 2112
  I.Overture
  II.Temples of
     Syrinx
  III.Discovery
  IV.Presentation
  V.Oracle:
    The Dream
  VI.Soliloquy
  VII.The Grand
      Finale
 A Passage To
 Bangkok
 The Twilight Zone
 Lessons
 Tears
 Something For
 Nothing

 "Caress Of Steel" の録音作業を経て様々なスタジオ・テクニックを習得したバンドとテリーは、ライヴでの再現を念頭に置きつつ実験的な曲作りをめざし、"2112" 組曲を作り上げた。
 A 面にこの組曲を持ってきたアルバムは、当初マーキュリーの幹部たちを「前作であれだけ失敗したのに、さらに芸術家気取りか!」と激怒させた。
 事実、メンバーやテリーもこのアルバムの出来が前作をどの程度上回っているのか自信がなかった。しかし、すばらしいジャケットに包まれたこのアルバムは、1976年3月の発売から一週間で10万枚の売り上げに達し、さらに雨のように注文が殺到したのだ。
 その直後、3月18日にバンドとクルーたちは, 今までと違う雰囲気を感じながらロードにでていった。

(Visions: The Official Biography より抜粋)




 ついに Rush の出世作となるアルバム "2112" です。
 A 面にはこれ以降 "Counterparts" tour で一時姿を消した以外, 一度もセット・リストからはずれなくなる組曲 "2112" が収録されています。
(とはいっても今回の "T4E" tour で全曲演奏が復活するまで pre-"Moving Pictures"tour 以降は部分演奏にとどまっていましたが)

 さて、期待に胸膨らませて始まった 2112 tour ですが、現在までのところ, たったひとつの公演しか陽の目を見ていません(涙)。
 しかも情報がない。収録されたのが1976年5月30日「ではないか?」というだけなのです....さらに最悪なことに Geddy が MC で場所を言っていないがために、場所の特定もできていません....
 一般にこの音源は 5/30 Washington, DC とラベルされて出回っています。しかし、10%程度のトレーダーは 5/30 Rochester, NY とラベルしています。さらに同程度の割合で 5/30 Springsfield, IL ともいわれています。いったいどれが正しいのでしょう? NMS には 5/30Washington, DC と最も一般的なもので載っていますが、さる強力なラッシュ・ヘッドが「Rush は 5/30 には Washington, DC にはいなかった」といっているという不幸の手紙のような話も伝わってきています....(T_T)
 サウンドボード録音なのが唯一の救いです。

 以下がその unknown date, unknown location の音源のセットリストです.

  • Bastille Day
  • Anthem
  • Lakeside Park
  • 2112
  • Fly By Night/ In the Mood
  • Something for Nothing
  • By-Tor and the Snow Dog
  • In the End
  • Working Man/ Finding My Way/ Working Man
  • Drum Solo
    (encore)
  • What You're Doing

 まず COS と FBN の1曲目がオープニングを飾っています。これでもかのハード・ロック攻勢です。
 そしてちょっと雰囲気を変えて、聴衆をカナダに誘う曲 "Lakeside Park" につながります。
 いまのところ "COS" tour の音源が公開されていませんので、この音源が COS からの曲のライヴ音源を含むものとしては最も古いものです。
 そして、満を持しての "2112" 。Geddy のハイトーンも絶好調です。
 この時期はまだサポートであったり、ヘッド・ライナーでも演奏時間がそれほど多くとれなかったため、残念ながら第3章 "Discovery" と、第4章 "Presentation" の最後の(主人公と神官との)掛け合いと, それに続く第5章 "Oracle: The Dream" はカットしての演奏です。
 それでもアルバム・リリース直後らしく、ギミックもそのままにアルバム通りのアレンジで聴衆をうならせています。
 "Temples Of Syrinx" の速いパートにあるブレイクなどで、息が完全にあっていないのはご愛敬。

 #個人的にはスタジオ・ヴァージョンの "Overture" で聴かれるアコースティック・ギターのバッキングが好きなのですが、「これはライヴでの再現を無視しよう!」として加えられた「第4のトラック」に入れられたものなので、その再現は望むべくもありませんね。


 以下、"FBN" tour とほぼ同じようなセットになります。
 Rush 流 Rock'n'roll といえる "Fly By Night" と "In The Mood" はメドレーで演奏され、聴客を近未来からふたたび現在へと引き戻します。
 そしてアルバム 2112 の B 面から唯一演奏されている、 "Something For Nothing" です。同アルバムのなかでは最も 1st, 2nd 路線を受け継いでいる曲といえるでしょう。
 "By-Tor And The Snow Dog" は、ファンを再び幻想世界へとつれてゆきます。

 #残念ながらこのテープではこの曲の途中で A 面が終わり、B 面あたまに続いています。最初に録音した人の大チョンボ。


 これに続く"In The End" がショウの二つ目のハイライトになっています。
 ここで聴かれるのは、アルバムバージョンよりもずっとタメをきかせた、圧倒的に重厚な演奏です。
 Rush のアメリカでの浮上のきっかけとなった "Working Man"。そして続く Drum Solo では、現在までの Neil の Drum Solo でのお約束となっている部分が、ほぼ完成していたことがわかります。
 具体的にいえば、パラディドルによるカウベルのメロディ演奏、ツーバスとスネア、メロタムなどの2連のコンビネーション(ドカタカドカタカっていう奴です...ごめんなさい、ドラム関係の語彙が少なくって(^_^;)などです。

 #ところでこの "Working Man"、せっかく Geddy が "In The End" の余韻を生かして

  "This is Working Man"

 と紹介したのに、Alex のチューニングがいつまでたっても終わりません。
 そこで一言、

  "This is tuning man :P"

 わたしは最初に聴いたときは大爆笑でした。
 今に至るまで異様に MC の少ない Rush ですが、だからこそこういった一言がおかしいんです。


 そして締めは "FBN" tour と同様、"What You're Doing" 。

 ところで、このセット・リストを見てもらってわかるように、"2112"tour ではリーダー・アルバムであるはずの "2112" からは2曲しか演奏していません(といっても "2112" はアルバムの半分を占めますが)。
 "Tears" は COS から Rush のジャケットを担当している Hugh Syme が Keyboards を担当した、初の純粋なスタジオ曲なので除外するとしても、なぜ新作からもっと演奏しなかったのでしょうか?
 その答えはおそらく COS アルバムおよびツアーの失敗にあると思われます。
 前ツアーで新曲が思ったように受け入れられなかったことから、この"2112" tour でも 1st, 2nd の曲を多めにしたのだと思います。
 次のツアーからはぐんと古い曲の割合が減ってゆきます。 それはファンがこの新作を、さらには自分たちの作る楽曲を受け入れている、という自信を得たからではないでしょうか。


 さて、思いのほか手応えをつかんだ Rush は、この瞬間を捕らえるべくライヴ・アルバムの制作を決心しました。その録音のための3日間の短いカナダ・ツアーが、まる3カ月間続いた "2112" tour を締めくくったのです。





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