エッフェル塔のザジ

■地下鉄のザジ■

日頃ハリウッド映画のスタイルや作劇に慣れている(慣らされている?)せいか,たまにクラシックなヨーロッパ映画などを見ると,そのあまりの違いに驚くことがある。カラー,というより香りの違いとでも言おうか。

いろいろできるもんだなあ。観客としてお世辞にも勤勉とはいえない僕にもそう実感できる一瞬である。映画って懐の深いジャンルなのだ。その豊かさを知ること自体,映画を見る快感のひとつである。

ルイ・マル監督の「地下鉄のザジ」はスラップスティック・コメディということになっているけど,初めて見る人には実に不可思議で奇妙な体験になるだろう。わかりやすい映画ばかり見ている目にはシュールでさえある。なんじゃこれ?って感じでクエスチョン・マーク連発かもしれない。目が輝く人もいれば眠くなる人もいるだろうという世界である。

パリの街を駆けめぐる10歳の女の子ザジのまわりで大人たちが繰り広げる支離滅裂な大騒動,という話なんだけど,いやホントに支離滅裂なんだ。特に後半ははじけまくっていてアメリカ映画にはまずありえない展開。

でも面白いんだな。目が離せない。

次から次に湧いてくる発想に手の方が追いつかない,という感じの作品なので整理も完成度もあったもんじゃないが,見終わると「はあ〜」とひとつ大きく息をついて「プログラムでも買おうか」という気になる映画である。映画を志した人がいろいろ実験してみたくなる気持ちがわかるなあ,というシロモノだ。

特にエッフェル塔のシークエンスは映像としても実に斬新で印象的だった。あのアングルにあの撮影!絵ハガキ的なイメージしかなかった僕はこのシーンでエッフェル塔の印象がまるっきり変わってしまった。中でもザジがエッフェル塔のらせん階段を降りていくシーンはこの映画の白眉ではなかろうか。間違いなく今まで自分の中にはなかった絵で,正直「あ,すごーい」と感嘆してしまった。

すでにDVDも出ているのだが,うちにあるのは古〜いLD版。アンプから音が出ないのであれれと思ったら,古すぎてアナログ音声しか収録されていなかった……というくらい古いバージョンで申し訳ないが,サイド2の3分8秒といったところ。うーん,DVDも買っちゃおうかな。

可愛いけどかわいくないザジと大人たちとのやりとりはカンペキに大人の会話なのだが,見ているうちになんだか自分もこまっしゃくれた女の子の相手をしてみたくなる。中年男ゆえの反応だろうか。

60年の作品。今も昔もフランス映画って一筋縄ではいかないねえ。

地下鉄のザジ HCL-1036
発売元(株)創美映像